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志を抱き才と戯れた男
1話
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から目を離す。内容は黄巾賊の残党について調査されたモノであった。内容は中々凄まじい。青州で暴れまわっていた百万の黄巾賊の残党が、?州に集結していると言うものだった。普通の家ならばそのようなものは無いだろうが、幸いな事と言うべきか残念な事と言うべきか、自分はそれなりの家柄に生まれてきていた。つまりはそれなりに伝手があったと言う訳だ。尤もそれは自分が構築したわけでは無く、元々あった力ではあるが。
 とは言え、百万のうち、実際に戦えるのは半数にも満たないだろう。寧ろほとんどのモノは武器すら持っていないのかもしれない。記されていた情報を元に、そんな事を思う。そもそも百万の大軍など、国であっても容易に養えるものでは無い。それを賊徒が用意するなど不可能なのだ。見た訳ではないが、そう思った。そんな蓄えがあるのなら、そもそも乱など起きないのだ。食べられないから、乱は起る。単純だが、それ故疑い様の無い道理であった。
 そんな事を考えつつ、用意された着物に袖を通す。藍色に染められた着物であった。深い色は、どこか落ち着いた感じがして、好きであった。着替えた事でやる事も無くなったので、寝台に腰を下ろす。客人に対して非礼に当たるが、文若とは何度もこの状態であっている為、気にならない。あの娘とて、ソレは承知の事である。部屋の外から足音が遠ざかっていくのが解った。
 坐したまま、窓から空を見上げた。竹簡や書簡を寝台に座り読んで過ごす事が多い。それ故、窓の近くに寝台は置いてあった。見渡す限り青が続き、その傍らに白が点在している。天。人の手が、決して届かない場所であった。
 帝は、自分の事を天子と称する。解りやすく言えば、自分は天の子だと称するのだ。人でありながら天を冠するのである。自分は、人は人でしかないと思っていた。人は、人以外にはなれないのである。だからこそ、人であることを脱する事を望むのだろうか。古の帝が、不老不死を求めたのもその為なのかもしれない。そんな事を思った。届かないからこそ、望む。凄まじい欲である。ある意味では帝と言うのは、何よりも人間らしいのだろうか。

「お久しぶりね、戯志才」

 思考が脱線していたところで、名を呼ばれた。戯志才。それが俺の名であった。久方ぶりに聞いた声色に、少しだけ懐かしさを感じた。

「はい、荀ケ様。其方はご健勝そうですね。最近では、曹操軍は有能な人材を多数得て、天にも昇る勢いだと聞きます。その名臣の筆頭がこのような場所に何かご用でしょうか?」
「貴方は何時にも増して、死にそうな面をしているわね。存外しぶとい。……本来なら、貴方の力を借りるのは癪だし絶対に嫌だったのだけれど、私個人の感情でそんな事を言っていられない状況になったわ。あと、その慇懃無礼な感じはやめなさい。似合わない上に、腹が立つから」

 何度も書簡を送ってき
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