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志を抱き才と戯れた男
1話
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大の才は、武芸では無いのだ。だからこそ諦めもついた。自身の最大の才と言うのは、用兵だった。兵士を率い、陣形を組み、縦横無尽に動き回る。それが、自分の持つ才だった。将帥として、或いは軍師として戦場を駆ける。個では無く、群れで勝つ。それが自分にできる事であった。気付いたのは、賊徒と戦っていた時の話であった。余談だが、一飯の恩により賊徒として戦った事もある。猛将として誇る武勇は無いが、戦場で身を守るには充分な武芸を身に付けていると考えれば、自分にとって武芸については充分だと言えた。

「いっその事、断って、奉孝でも推すべきだろうか。あの娘も十分な才気を持っている。……いや、無理か」

 現状を鑑みるに、真剣にそんな事を考える。郭嘉。字を奉孝。真名は稟。尤も真名については受け取っただけであり、その名を俺が呼ぶ事は無い。最初に真名を呼ぶのは、主とした人物。そう決めていたからだ。真名を受け取った際、その旨については告げていた。兎も角、奉孝は諸国を見聞していた時に得た知人の一人であった。才にかけては申し分ないだろう。機を見て敏と成す用兵。戦場での機転。刃物のような鋭利な気質。その全てが、将として申し分が無い。そう思える程の人物であった。賊徒相手に肩を並べた。実力は十分に解っている。
 だが、無理だった。そもそも彼女がどこにいるのか見当もつかないのである。良案ではあるのだが、実行できないのではないのと同じなのだ。さて、どうしたものか。考え込む。

「――っ、ごほごほ、かはっ」

 ううむ、と両腕を組んだところで、違和感を感じた。胸の奥から怖気がせり上がってくるのを、実感する。直ぐさま右手を口元に添えた。堪らず咳き込む。何度も咳が続き、視界が揺らいだ。今日は多いな。そんな事を思考の隅で思う。やがて、咳が止まり、視界の揺らぎも治る。右手からは、紅いものが絶え間なく広がり、寝台を染めている。自分の口から零れた血液だった。それが、赤く赤く寝台を染めていた。その光景が、どこか愉快であった。何を悩んでいるのだ。体が自分にそう告げた気がした。血を吐いた。身体の調子は最悪である。だが、気分は何処までも晴れ渡っていた。

「時間は余り残っていないか。ならば、身体の赴くまま、駆けるのも悪くは無い」

 どこか晴れ晴れとした気持ちで呟く。腐れ縁の友から来た手紙。鮮血に染まっていた。






「若様。荀ケ様が来られました」
「そうか、解った。文若が相手とは言え、流石にこの服ではまずいな。いや、文若が相手だからこそか。アレは小言がうるさい。兎も角、服装を改める。用意を頼む」
「畏まりました」

 家人である、老人が言った。若と呼ばれるほどの年齢でもないのだが、生まれてからの付き合いだった。自分の事は好きに呼ばせていた。その言葉を聞き、読んでいた竹簡
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