1話
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ごほっと零れ落ちる。頬を伝う熱が、心地よい。
「我等は、勝利しました」
「そうか」
「はい」
楽進の言葉を聞き、ふぅっとため息が零れた。ふいに、ぽつぽつと冷たいモノが顔に当たる。涙だった。戦場に横たわる俺を見詰めている楽進の瞳から、ひとつふたつと、滴が零れ落ちる。ソレを拭おうと手を伸ばそうとするが、上手く動かなかった。
「すまない、な」
だから、謝る事にする。今の自分はそれ以外出来なかった。
「あら、生き残ったのね」
不意に、声が聞こえた。身体が動かないため、視線だけを声のした方に動かそうとする。
「ああ、動かなくていいわ」
「そう、ですか」
声と共に、背中に温かさを感じた。ゆっくりと腫物を扱うように抱き起される。此処に来て、漸く相手の顔をみる事が出来た。曹孟徳。この軍の最高責任者であった。
「約束を守ってくれたのね」
「約束、ですか? そのような事、何かしたでしょうか?」
曹操殿の言う事に、見当がつかなかった。聞き返す。すると、にやりと笑みが深くなるのが解った。
「したわよ。あなたも、生きなさいって」
「……、嗚呼、あの時の言葉ですか」
いたずらが成功した子供の様な笑顔で語る曹操殿の言葉を聞き、思い当たる。それは、出陣する前の言葉だった。『戯志才。この戦、勝つわ。だから、貴方もいきなさい』。あの言葉は、生きなさいだったのか。持ち場につけと言う事だと思っていた。
「随分と洒落た事をされる」
「それが、私よ。どう、惚れ直したかしら?」
「全く、ですよ。貴女に、文若が心酔するのも頷ける」
楽しそうに笑みを浮かべる少女に、ただ笑みを浮かべた。想像以上の人物だった。まったくもって、度し難い。
「私の臣下になるって話、考えてくれたかしら?」
「そう、ですね。貴女ならば、仕えるのに申し分が無い――」
俺の目をじっと見詰め、そう尋ねてきた。答えなど、既に決まっていた。
「ですが、貴方に仕える事はできそうにありません……」
気持ちの問題では無かった。自分は、この戦に全てを使い切っていたのだ。何かをする力は、もう残っていなかった。
「そう。また、振られてしまったのね」
俺の言葉を聞いた曹操殿は、ただ小さく笑う。綺麗だ。ただ、そう思う。
「曹操殿」
「なに、かしら?」
だからこそ、最期に言葉を残す。
「真名を、受け取ってもらえませんか?」
自分にはもうできる事は無いだろう。だけど、主としたい人物は決まっていた。曹孟徳。乱世を終わらせるにたる人だと、思った。だからこそ、主に捧げると決めていた名を受け取ってほしい。
「ええ、解ったわ。ならば私の真名も教えてあげる。私の真名は華琳と言うの」
「
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