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志を抱き才と戯れた男
1話
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る敵すべてが手にする大剣、七星餓狼に吸い込まれるかのように、血風が巻き上がる。これが夏侯惇。これが、曹操軍最強か。

「敵陣を断ち割った! 全軍、転進、再び――」

 やがて、黄巾の本隊を文字通り斬り抜け、一直線に駆け抜ける。そのまま、大きく迂回し敵本隊の側面からもう一度突っ切り、指揮系統をズタズタにしてやろうと叫んだところで、背中から言い知れぬ悪感が駆け昇る。来たか。咽び上がる、怖気にそんな事を思う。

「が、はっ……」

 喀血。堪え切れず鮮血を吐き出す。燃えるような紅が、弧を描き降り注ぐ。剣を取り落としそうになるのを、気力で持ちこたえる。馬上から振り落とされなかったのは、奇跡と思えた。

「戯志才殿!?」

 すぐ傍を駆けていた兵士が慌てたように声をかけてくる。ソレを手で制し、言葉を紡ぐ。

「ぐ、問題ない。それより、お前の名は?」
「が、楽進と申します」

 まだいける。だが、最期まで保つかは解らなかった。その為、やるべき事を伝える。一度、相手の目を見た。まっすぐな、良い目だと思った。
 予め軍を割る事は決まっていた。その為、自分と並走する相手は夏候惇将軍が選んだ者だった。軍を二つに割った時、夏候惇の代わりに隊を引っ張れる器量を持つ者。ソレを宛がって貰っていたのだ。

「ならば楽進よ。もう一度敵陣を割いた後、此方の軍を二つに割り、二方向から撹乱し続ける。俺の身に何かあった時、お前が指揮を取れ。できるな?」
「……っ、承知しました」
「もしもの時は、頼む」
「……はい」

 楽進の返事を聞き、血で濡れた口元を袖で拭う。血を吐いた。だが、不思議と頭はすっきりとしていた。手に持つ剣を握り直す。重さを感じなかった。正面を見据えた。二度目の衝突。それが目前に来ていた。口元が吊り上がる。

「全軍、駆け抜けろ! 我らの力、この戦で示す!!」

 剣を掲げ、叫んだ。応っと、兵士たちが気勢を上げた。僅かに、咳き込む。美しい紅が手を彩る。命を燃やし尽くす。そう思い駆け抜ける。






 陽が、暮れた掛けていた。曹操軍と、黄巾賊。その二つぶつかり合いは、曹操軍が多大な犠牲を出しながらも、敵の本隊を散々に撃ち破る事に成功し、壊滅させていた。未だ敵軍は膨大な数を擁しているが、主力は全滅していた。更には食料と言う問題点があり、主力を欠き食糧も無いと言う事実により、士気が大きく下がり脱走兵がすらも出かねない状態であった。既に戦意など、欠片も見当たらない。事実上、戦は曹操軍の勝利で終わっていた。あとは、どのように彼らと交渉を進めるか。ソレを考える局面に来ていた。自分が成すべき事は、全て終わったと言ってよかった。

「……戯志才殿」
「なん、だ?」

 楽進が、俺の手を取り名を呼んだ。口から、血が
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