1話
[14/17]
[1]次 [9]前 最後 最初
よ。今言ってくれないなら、貴方がそう言いたくなるようにするだけだから」
言葉に詰まる俺に、曹操殿は悪戯っ子がするような様な楽し気な笑みを浮かべ、やんわりと言った。思わず目を見開く。この局面に来て、そんな事を言われるとは予想だにしていなかったからだ。心の内に、じんわりと温かいモノが生まれた気がした。あの文若が惹かれたと言うのも、今ならば素直に納得できた。
「戯志才。この戦、勝つわ。だから、貴方もいきなさい」
「承知。それでは、御武運を」
曹操殿が俺の目を見て、静かに、だが楽しそうに告げた。ソレに、万感の思いを以て答える。また、曹操殿がふんわりと笑った。その笑顔は何処までも自身に満ちており、気高いと思った。
この戦に生き残れたのならば、曹操殿に最期まで仕えるのも悪くは無い。そう、思った。
「皆、これまで良く戦ってくれた」
全軍が前を見据えたまま、曹操殿が言葉を紡ぐ。
「連日に続く、徒労とも思える小競り合い。その甲斐あって、敵の主力を引き摺り出す事に成功した」
語るのは、百万の賊徒との戦い。
「これまでの戦いは、今日この日の為にあったと言える。先の見えない戦いの果てが、漸く見えてきた。今日ここで戦は終わる」
曹操軍の兵士で犠牲になった者達は少なくなかった。だが、その数倍、数十倍の相手を倒しこの日を迎えた。
「皆、剣を抜き鞘を捨てろ! 眼前に在る敵を殺し尽くし、今此処で戦を終わらせる」
今こそ死力を尽くす時。全軍にそう宣言し、馬上で号令を下す。全軍が気炎を上げる。数において遥かに劣る曹操軍。だが、それでいて尚、戦場を支配している。曹操殿の才に、全ての人間が引き込まれていくのが解った。
「全軍、我に続け!!」
馬腹を蹴り、大鎌を振りかざし号令を飛ばす。全軍が『応!』っと、咆哮をあげた。すべての軍が、我先にと駆け始める。全ての兵が曹孟徳に魅せられていた。その覇気に、敵軍が呑まれていくのが感じられる。それが合図だった。そして、
――血戦が始まった。
「死にたい奴から前に出ろ! 命が惜しくば、道を空けろ!!」
夏候惇将軍が雄叫びを上げる。その覇気に引っ張られ、兵士たちもが咆哮を上げ突き進む。曹操軍の中でも選び抜かれた精鋭中の精鋭。これまでは押しては直ぐに退くと言う、煮え切らない戦い方を続けてきた為、皆が皆鬱憤がたまっていたのだろう、方々から気勢が上がり続けている。
「全軍、二列縦列! このまま突っ込み、敵軍を完膚なきまでに叩き潰すぞ!」
勢いに乗った騎馬隊に即座に指揮を下し駆け抜ける。数舜後には、黄巾賊にぶつかり血飛沫が吹き荒れる。 先頭を走る夏候惇。その戦いぶりは、最早同じ人間とは思えない。迫
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ