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志を抱き才と戯れた男
1話
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削げる。ならば、戦う以外の余地もできると言う訳であった。その状況に持っていくのが、俺の役目なのだ。

「ええ、だから貴方に聞いておこうかと思ってね」
「何をでしょう?」
「貴方は、私に仕える気は無いのかしら?」


 曹操殿は何気なく言った。力を貸すのではなく、正式に臣下にならないかと。

「……」
「そう、直ぐに答えは出ないのね。なら、この戦が終わればもう一度聞くわ。それまでに考えて置いて」

 そのまま背を向ける曹操殿。ただ見送った。紡ぐべき言葉が見当たらなかった。多くの時を過ごしたわけでは無い。だが、それでも自分の力を駆ってくれている事は理解ができた。現在も黄巾賊と戦えている事からも解るように、彼女は並の器では無いだろう。主として戴くにたる器なのだろう。それは解った。だが、それでも尚、応えられなかった。

「これも、天命か」

 空を見上げ、呟いた。戦場に在りながら、身体は驚くほどに調子が良かった。だが、それは長く続かないと解っていた。体から何かが絶えず零れ落ちている。そんな奇妙な感覚が、確かにあった。だからこそ、応えられなかった。ならばせめてこの戦だけでも、共に戦おう。そう思った。





「アレが、敵の主力のようね。はぁ、漸くこの徒労とも思える根競べに決着が付くようね」

 決戦の日。眼前に集結した黄巾賊の戦陣を見、曹操殿が楽しそうに呟いた。総数約三万の曹操軍が集結し、整然と隊列を組んでいる対面には、大凡賊軍とは思えない程の錬度と思われる一軍が集結していた。黄巾賊の主力であった。百万の軍勢の核となる、精鋭部隊。その力はこれまで相手にしてきた烏合の衆とは異なり、気力に満ちているのが解った。
 数にして十万程の軍勢。その背後に布陣する形で残りの軍勢が集まってきている。敵軍もここが正念場と理解しているのだろう。対陣しているだけで、我らを打ち破ると言う気概が感じられた。否が応にも両軍の気勢が上がる。

「然り。今日起こる衝突。それが、曹操殿の軍の道を決めると言っても過言では無いでしょう」

 淡々と答える。決戦を前に、散っていた軍が曹操殿の下に集結していた。今まさに行われようとしているぶつかり合い。それが、曹操軍の存亡を決めるのは誰の目にも明らかである。決して負けられぬ戦だった。だからこそ、此度の主力同士のぶつかり合いは総力戦と言える。

「そうね。此処で負けてはこれまでの犠牲が無駄になるわ。だからこそ、私は全力を以て勝利する。けど、一つだけ心残りがあるわ」
「心残り、でしょうか?」

 此処に来て、曹操殿の言葉の意味が計れなかった。大凡思いつく限りのことはした。決戦の前にやり残した事は無いと思えた。

「ええ。貴方は、我が軍とは言ってくれないのね」
「……」
「くす、別に良いわ
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