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志を抱き才と戯れた男
1話
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 主の下に馳せ参じようとする夏侯惇将軍に、叫ぶように告げる。ここで彼女を行かせれば、なし崩し的に我等も彼女を追う事になり、曹操殿の部隊と合流する。二つの部隊が一つになれば、戦力が集中するが、ソレは敵にも言える事である。寧ろ敵の方が圧倒的戦力を保持している為、それを一つで受け止めなければいけなくなるため、現状で合流するなど論外なのだ。

「しかし、華琳様が」
「どうしても行くと言うのならば、我が首を刎ねて御行きください。此処で貴女が離れると言うのならば、我らに勝利はありません。ならば、この首に未練など、無い」

 それでも尚、動こうとする女性に、言った。命など、惜しくは無い。その覚悟を、随分と前からしていたのだ。一命を賭して挑む、戦。その半ばで倒れると言うのならば、本望だった。

「行けば、本当に負けるのか?」
「必ず。それは我らの、曹操殿の望む事ではない」
「解った。従う」

 夏候惇将軍は何とか思い直してくれた。ならば、やる事を成さねばならない。剣を強く握り、言葉を紡ぐ。

「ならば、再び転進、激突後、即座に兵を引きましょう」
「敵に突っ込めばいいのか?」
「然り。突き崩し、即座に引く。それを只管繰り返します」

 今必要な事は、敵を焦らす事だけだった。それを夏候惇将軍に言い聞かせる。短く頷いた。それだけで良かった。

「行きましょう」
「ああ、背中は任せるぞ!」

 互いに一声かけ、馬首を返し、そのまま駆け抜けた。







 当たっては退く。そんな事を繰り返し続け、何日がたっただろうか。黄巾賊が砦を攻撃しようとする度に、機先を制し、奇襲をかける。只々それだけを行い続けていた。既に二千騎居た兵の内3割ほどの姿が見えなくなっている。離脱しきれず飲み込まれたのだろう。事実として、受け止めていた。それでも敵の犠牲は此方の比では無く、万単位に及ぶのだろうと、荒れ果てた地で横たわる屍を眺め、思い至った。

「あら? 貴方もちゃんと生きていたのね、戯志才」

 陽も落ちかけ、兵たちが兵糧の準備に取り掛かり始めたところで、そんな言葉を聞いた。曹孟徳。自身の味方する軍の、総大将だった。

「この戦が終わるまでは、死ねませんよ」
「そう。それならいいわ」

 俺の言葉に、曹操殿はただ微笑を浮かべた。

「数日前に流言を流した。袁紹が南下してくるってね。それがようやく実を結んだのよ。敵は主力を前面に押し出しての総攻撃を計画している。だから、明日全てが終わるわ」
「ならば、明日が正念場と」

 黄巾等の主力。それを完膚なきまでに打ち破り、無力化する。それがこの戦の最終的な目標だった。数は多いが、本当に強い相手は敵の主力だけである。それを完膚なきまでに打ち破れば、敵の勢いは一気に
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