1話
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石を持ち、此方に向かってくるものも少なくは無い。その為体でありながら、凄まじいまでの圧力を感じさせられる。彼我の戦力差は、報告を鵜呑みにし馬鹿正直に計算するならば三十倍を超えている。武器がどうだと言う次元の話では無いのだ。其処にいるだけで、抗いがたき圧力を感じる程の差が、明確に存在していた。それを肌で感じ取る事が出来た。
馬上で剣を握り締める。戦場の圧力が懐かしく、血が騒ぐのを感じた。
夏候惇将軍が率いるのは、曹操軍の誇る二千の騎馬隊であった。精鋭の中から精鋭を選び取ったその部隊は、兵力を見れば二千と一割にも満たない数だが、その練度と機動力、戦闘経験を考慮すれば、数万の軍勢に匹敵すると言えるほどの部隊であった。その先頭を、夏候惇将軍が駆け抜け、砦を攻撃しようとしていた黄巾賊の横腹に食らいつく。
「皆、続け。将軍を死なせたとなれば、一生の恥だ。追いすがり、敗残兵を討ち果たす」
先陣を駆け抜ける夏候惇将軍の後姿を一瞥し、号令を下す。即座に騎馬隊が陣形を組み、駆け抜ける。夏候惇将軍の一喝によって広がった動揺を突き、放たれた矢の如く、峻烈な一撃を加える。
「矢、放て」
「おお、戯志才。追いついて来たか」
突き崩した前衛が再起する間を与えず、矢を放つ。その隙に先行し、敵陣に斬り込んだ夏候惇将軍と馬首を並べる。たった一人で敵の大軍に切り込む姿は、まさに万夫不当と言うに相応しいが、そんな事を口にしている暇は無い。視線だけで賞賛を送りながら、言葉を紡ぐ。
「将軍、即座に引きます。呑み込まれれば、それで終わります。未だこの地は、命を賭す場ではありません」
「む、そうか、解った。引くぞ!」
俺の言葉に夏候惇将軍は即座に頷き、馬首を返した。自分もそれに倣い、追走する。彼女ほどの猛将が、異を唱える事も無く従ってくれるのが、有りがたかった。俺を信頼していると言うよりは、曹操殿や文若を信頼しているのだろうが、それでも夏侯惇ほどの武人を意のままに動かせると言う事は、軍師として僥倖だと言えた。その背を負いながら、ただただ感謝の念を持つ。彼女を動かし、自分の戦ができる事はそれ程までの事だといえた。
「む? アレは華琳様の軍か?」
「左様。そのまま勢いのまま突っ込むでしょう」
一撃離脱をした後、遥か東方から一直線に黄巾賊に向かい駆け抜ける部隊を見つけた。夏候惇将軍が声をかけてくる。ソレに応えた。
「何!? ならば私も馳せ参じなければいかん!」
「おやめください! 貴方がここで駆けて行けば、それで終わりです」
「しかし、華琳様が敵と当たると言うのなら、私も行かなければ」
「行けば、それで敗北します。曹操殿の部隊も即座に離脱します。次に我らはその撤退を援護する様に、再び敵にぶつかる。それを繰り返す事が、この戦の要だ」
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