序文
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聖杯戦争。
今やその名を知らぬ魔術師は、どんな三流であれど存在しない。
元は魔術師の最大手である御三家──ドイツの錬金一家アインツベルン、ロシアの蟲遣いマキリ、極東の宝石魔術師トオサカ──が作り上げた魔術儀式の事である。
アインツベルンがその技術でもって作り上げた《聖杯》は、万能の願望器であった。
しかしその圧倒的な神秘を起動させるには、なんと英霊達の魂が必要であるという。そのために、聖杯は七騎の英霊……より正確にはその顕現を、『マスター』と呼ばれる、聖杯戦争参加資格を手にした魔術師たちに、『サーヴァント』として召喚させるのだ。
聖杯は、あらゆる願いを叶えるが、しかし願いを叶える権利を手にするのは一人だけ。しかし、必要とされる六騎─聖杯の本来の運用方法である、『根元への到達』を成し遂げたいならば七騎全て─の英霊の魂だ。
故に、殺し合いが始まる。六騎のサーヴァントを、己のサーヴァントの手で殺し尽くさせるバトルロワイヤルが。
血で血を購い。
あらゆる手段をもって。
意思と、欲望を糧として。
最後の一人になるまで、『敵』を虐殺し続ける。
一度マスターに選ばれた魔術師は、『令呪』と呼ばれるサーヴァントへの絶対命令権を有した三画の紋章を失わない限り、サーヴァントを失ってもマスターになる可能性がある。それ故、魔術師達はマスターの命をも狙うのだ。
そんな争いが、トオサカが用意した極東の辺地で、過去三度、行われたという。
しかし三度目の折、ルーマニアの魔術師一家が『大聖杯』を奪い取り、極東の聖杯戦争は終結する。
御三家は聖杯への興味を失う、或いは滅び、時代の中枢はユグドミレニアに移った。
その六十年後から。
世界のあらゆる場所で、聖杯戦争が観測されるようになる。
不完全な聖杯戦争であった。七騎存在するはずのサーヴァントが欠け、五騎、少ないときには三騎ほどの事例すら存在したという。
魔術師でない者ですら参加が可能になり、さらには英霊も、邪悪な英雄……反英霊が呼ばれることもあり得るようになっていた。
だがそんな聖杯戦争乱立期もまた、過去の話。
ルーマニア全土を巻き込んだ聖杯大戦が人知れず終結し、聖杯戦争は幕を下ろしたのだ。
──そう、信じられていた。
一ヶ月前、聖杯戦争の開催が宣言されるまでは。
魔術協会の総本山、『時計塔』に送りつけられてきた、聖杯戦争開催の知らせ。
開催地は極東の島国、日本。それも、ここ十数年で急速に発展した人工島だった。
最初は眉唾だ、と、誰もが聖杯戦争開催を信じていなかった。
当然だ。聖杯戦争は終結した。全ての起源だった『大聖杯』は既に消失したのだから。
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