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IF物語 ベルセルク編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
外伝1 哀戦士
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いました」
ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、俺、ブラウラー大佐、皆の視線がエーリッヒに向かった。
「だからあんなに無茶ばかりしたのか。一対一での決闘など……、一つ間違えば命を失っていたぞ」

リッテンハイム侯の言葉にエーリッヒは首を横に振った。
「無茶ではありません」
「勝つ自信が有ったのか?」
「いいえ、有りません。死ぬ気でした」
シンとした。死ぬ気だった。やはりそうだったのか……。“馬鹿な事を”とブランシュバイク公が小さく呟いた。

「馬鹿な事ですか……」
今度はエーリッヒが呟いた。口元に軽く笑みを浮かべている。
「十二の時、両親を貴族に殺されました。私の一番大切なものを貴族に奪われたんです、無慈悲に。あの時平民だからといって虐げられる事の無い社会を創りたいと思いました。それを両親の遺体の前で誓いました」
「……」

「そんな時ローエングラム侯が現れたのです。美しい目をしていた。下級貴族の出自、皇帝の寵姫の弟という立場、覇気、才能、全てが揃っていた。……出世も早い、彼なら帝国を変える事も可能だと思った。彼なら平民達の支持を得易い。新たな王朝を創る事も可能だと思いました」
「エーリッヒ!」
それ以上は言うな、言ってはいけない。ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、ブラウラー大佐、皆顔を強張らせている。

「それからはずっと見てきました。多少政略面で弱い部分が見えましたがそれも悪くなかった。自分が助ければ、そう思いました」
言葉が続く、笑みが続く、楽しそうな表情だ。俺の制止など何の意味も無かった。エーリッヒはローエングラム侯の事を懐かしんでいる。

「だが卿はわしの所に残ったな。いつかわしとローエングラム侯が戦う事になると予想していたのに何故逃げなかった? 彼の所に行けば卿を重く用いてくれたはずだ。何故ローエングラム侯の所に行かなかった?」
「それは出来ません」
エーリッヒが首を横に振った。きっぱりとした口調だった。表情も変わった、現実を見据える目だ。

「私はコンラート・ヴァレンシュタインの息子です。父の名を貶めるような生き方は出来ません。それにローエングラム侯は節義の無い人間を軽蔑します。私は公に命を救って貰いました。それなのに公を裏切れば軽蔑されるでしょう。それくらいなら敵になる事を選びます。例え勝ち目が無くても」
笑みがまた浮かんだ、でもさっきまでとは違う。何処か寂しそうな笑みになっていた。

病室に沈黙が落ちた。ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、ブラウラー大佐、そして俺、皆押し黙っている。何と言って良いのか分からない。いつも考えてしまう、あの時、エーリッヒをブラウンシュバイク公爵家に引き入れたのは正しかったのかと……。死ぬまでに答えを出せば良いと言われた、出なければ答えは無い
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