(ハガレン)無言の会話、ラスト
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バッカニアがよく飲んでいたウォッカだ。
それを花束の横に置くと、俺は踵を返した。
懐中時計で時間を確認しながら、元来た道を戻っていく。
途中に小さな小屋のような、こじんまりとした商店が佇んでいる。先ほど花を買った店だ。
田舎の商店らしく、花のほかに雑貨や簡単な軽食も売られている。
二重になったガラスを俺は叩いた。奥から人の良さそうな夫人が顔を上げた。
「おや、さっきの軍人さんかい? もう墓参りは済んだのかしら?」
「ああ、名残惜しいが、帰りの時間があるんでな。何か食べ物はないか? 駅に着くまでの間に食べてしまいたい」
女はハイハイと頷くと、奥からいつくかの包みを持ってきた。どうやらミートパイのようだ。
これから先は、乗り換えだの移動だので疲れることだろう。俺は彼女の手から3つほど手に取った。
それをカバンに収めると、店を出るためガラス戸に手をかけた。
俺はふと、足元に色が落ちていることに気がついた。
ブリッグズの空の様に、深く澄んだ青い色。それが足元に見えている。
「店主、この花はプリムラの花だな?」
「男の人なのに、よくご存知ですね。珍しいわ」
俺は顔が赤くなるのを感じて、サングラスを顔に押し付けた。
男が花の名前を知っているなど、女々しいようで恥ずかしいのだ。
女は俺の表情など全く気がつかないようだ。ニコニコと目を細くして、花についてのアレコレを説明しだした。
「プリムラはどの花よりも早く花を咲かせることから『最初』って意味がある花なんですよ。それに花言葉も素敵で、無言の愛って言うんです。素敵な花でしょう?」
「ああ、いい花だな」
花に興味が持てない俺は、適当な感想を述べた。
女店主に礼を言うと、ガラス戸を静かに閉めた。
風が頬に当たる。冷たさが残るものの、昨日より暖かくなっているようだ。
ここも雪が残っているが、あっと言う間に、若葉が生い茂るようになるだろう。
「春を告げる花か……」
俺はミートパイを食いながら、女店主の言葉を思い出していた。
プリムラ。花言葉は無言の愛。
バッカニアはプリムラが持つ意味を知っていたのだろうか。知っていて、 アームストロング少将のプレゼントに、プリムラを選んだのだろうか。
知っている、知っていないで、花の持つ意味は大きく変わるだろう。
「そういえば……。ウィリアムの奴……」
あの色男は、プレゼントの発案者がバッカニアである事を気にしていた。それはどういう意味があったのだろうか。
プリメラの花、発案者であるバッカニア、アームストロング少将にプレゼントを受け取ってもらった時の彼の笑顔。
『中央の煤けた空は俺には似合わん』
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