巻ノ十三 豆腐屋の娘その四
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「それはよくない」
「自分を売ることはですか」
「人買いにはなるべく厄介にならぬことじゃ」
清海は娘に親身に忠告した。
「己を大事にせよ、売っていいことはない」
「それはわかっていますが」
花柳の中に入る、娘もそのことはわかっていた。
「しかし」
「あの中には出来る限り入るものではない」
とかく清海は親身にだ、娘に話す。
「あそこに入れば皆若くしてな」
「そう聞いていますが」
「とにかくそれは最後の最後じゃ」
自分の身体を売ることはとだ、とかく言う清海だった。
「わかったな」
「では」
「とにかくそれがしに診せてくれ」
また筧が言って来た。
「よいな」
「わかりました、それでは」
「はい、お願いします」
こうしてだった、娘は一行を家の中に入れた。すると入ってすぐの間に年老いた老婆が床の中にいた。その彼女にだ。
娘はだ、暗い顔で言った。
「おっかあ、元気?」
「御前無事だったんだね」
「ええ、私を売ってね」
そしてというのだ。
「それで銭を作ろうと思ってたけれど」
「だから馬鹿なことはするんじゃないよ」
「ええ、けれどね」
「けれど?」
「こちらのお武家さん達に助けてもらったの」
幸村達に顔をを向けてだ、娘は老婆に答えた。
「それでこの人達に銭を払ってもらったの」
「あれまあ、本当かい?」
「うん、本当だよ」
「これは有り難い、それじゃあね」
老婆は娘の話を聞いてだ、布団から何とか起き上がって言った。
「お礼をしないとね」
「いや、礼なぞいりもうさぬ」
幸村は老婆の言葉を手で制して答えた。
「困っている者を助けるのは武士の務め、当然のことでござる」
「何ということを仰るのか」
「何ということでもござらぬ」
幸村は老婆のその言葉も否定した。
「また言いますが当然のこと」
「ですが」
「お礼が必要と言われるなら」
それならとだ、幸村は老婆に述べた。
「診せて頂けますか」
「私をですか」
「はい、ご病気と伺いましたので」
「身売り、薬代の借金もあったと思われますが」
筧が前に出て老婆に述べた。
「それは我等が立て替えました、しかしご母堂の病が癒えぬ限りはまた同じことが起きまする」
「だからですか」
「それがし医術の心得もあります」
筧は老婆に確かな顔でまた述べた。
「それで診せて頂けますか」
「そうして頂けるのですか」
「はい、診ても銭は取り申さぬ」
それもないというのだ。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「おっかあ、診てもらってくれる?」
娘がまた母に言った。
「これから」
「そうだね、お武家様達がそこまで仰るのならね」
母は床から身体を起こして娘に応えた。
「それじゃあね」
「うん、今
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