第2話:隙間
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能力が、ここではすべてだ。
能力を持つものには存在意義がある。
なら、
(俺は…どうなんだろうな)
たい焼きを持つ手の力が弱まる。食欲なんて、とうになくなっていた。
「どうしたの、九重?」
「…いや、別に」
「シャキッとしなさいよ!あんたはいつも元気がないんだから!」
「お前は俺の母親か」
肩をバンと叩かれて、背筋が伸びる。しかしそれもつかの間で、細々と九重はたい焼きを口にし始めた。
「お前さ、いつも学級委員であんなに残ってやってるの?」
「そうだけど、どうかしたの?」
「いや、よくやるなって」
「なによそれ!もっと言葉があるでしょ!」
ムッとする吹寄。頬張っているたい焼きをすぐに飲み込むと、まくしたてるように反論を始めた。
「私は誇りを持ってなんでもやってるの!学級委員の仕事だって、とてもやりがいのあるものだわ。学校の授業だってそう!何でも真剣にやってるんだから!」
「すいませんね、不真面目で」
ひねくれた九重に、吹寄はため息をついた。
「どうして、あんたってそう悲劇のヒロインなのかしら」
ピクッと、九重の眉が動いた。
「何だよ、その言い方…」
「いつだってそうやって、最初から諦めている。何事も自分はダメだって」
心のどこかにあったモヤモヤが動いた。
「その前に努力しないと、始まらないじゃない!努力する前から諦めてちゃおしまいでしょ!」
それは確かに形を成して、
「九重、私はね!不幸を理由に、」
「うるせぇ」
九重の言葉に表れた。
「え、」
今までと明らかに違う九重の語気に、吹寄は一瞬固まってしまう。彼の名前を呼んでも、顔は伏せたままで、表情はわからなかった。
「ねぇ、九重、」
「俺、帰るわ」
吹寄の言葉も途中に、九重は立ち上がり足早に歩き始めた。
「え、ちょっと九重!ねぇ!」
もう九重は、吹寄の言葉に耳も傾けてすらいなかった。
公園を出ると、すぐに人ごみに紛れる。
(不幸を理由に…)
「うるせぇ」
ボソッと、九重は静かに怒りを吐き出す。そして、買ったたい焼きを手近にあったゴミ箱に思い切り投げ捨てた。
一瞬、人ごみの注目が九重に集まる。まるで腫れ物を触らないように、人ごみの中でここで浮いていた。
「お前に何がわかるっていうんだ…」
九重の脳裏に、昔の自分がよぎった。
ははっ、乾いた笑いが漏れた。
それは完全な、自分への嘲笑だった。
「俺はもう、ダメなんだ」
足を止めていた九重はまるで、この世界に取り残されたように、一人で孤独な存在だった。
*
「はぁ…」
玄関の鍵を開けると、吹寄は重い足取りで自分の自部屋に入っていく。几帳面に制服の上着はハンガーにかけたがそこまでで、倒れこむようにしてベッドにダイブした。
「やってしまった…」
帰り道の、九重とのこ
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