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SNOW ROSE
騎士の章
V
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り取りがあるのである。
「さてクレンよ、次はおぬしの番ぞ。」
 公の話しは終わったようで、クレンに話題が移された。
「どこから話せば良いやら…。」
 クレンはそう言うと、暫し思案した。それから少し間を置いて語り始めたのであった。
「ではベルク様に出会った経緯から…。」
 それは六年程前になる。
 クレンはヨハネスにて、元はミルバーム伯爵の三男として育った。
 だが、父のハンス・ペツォーレの贅沢ぶりにクレンは反感を抱き、それを父に進言した際に口論となり、半ば勘当同然に屋敷を後にしたのだと言う。
 最初は途方に暮れ、行くあての無い旅をしていた。だがある日、人買いに捕まってしまったのである。彼の容姿に目を付け、高値で売れると罠を張っていたのだ。
 そこへ偶然にも、食品の買い付けに来ていたベルクがそれを発見し、人買い商人らを素手で倒して追い払ってしまった。
 もっとも、この大陸では人買いは違法であり、殺されても文句は言えない。捕まっても死罪になるので、追い払われた者は幸運と言えるかも知れないが。
「その時、ベルク様は私を拾って下さり、後に公爵様に推挙して下さったのです。これが私がここに在る理由であり、ベルク様と公爵様のご恩に報いる唯一の方法だと考えております。」
 言葉少なに語ったクレンであったが、彼の言葉にはかなりの重みをマルスは感じていた。かなりの苦労があったことは、旅をした者であれば容易に想像出来たからである。
「さて、これを開けるかの。」
 沈んだ空気を払拭したいのか、公は陽気な声で一本のワインを持ち上げた。
 今まで沁々としていたマルスとエルンストであったが、そのワインをみるなり顔を引き攣らせたのであった。
「なんでドナなんですか…。」
 二人は二人して同じことを言った。
「ん?なんじゃ、ドナは嫌いかのぅ?ベルクが二人にはこれをと書いてきとったが…。」
 マルスとエルンストは顔を見合わせて苦笑いするほかなかったのであった。

 さて、食事も大分片付き、エルンストはそろそろ良かろうと話を切り出した。
「ケルテス公殿。勅令にて呼び出した理由を、そろそろお教え願いたいのですが。まさか、晩餐のためではありますまい。何かあったのですね?」
 公は静かに目を閉じ、暫らくは無言であった。それから目を緩やかに開くと、耳を疑うような事を口にしたのである。
「エーヴェルハーネ王妃が幽閉されたのじゃ。先日、わしのもとに王妃自らがしたためられた書簡が届けられての。王妃付きの家臣達も見張られているようで、何とか隙を見て出入りしている商人に渡したようじゃ。」
 公の話しを聞いて二人は驚愕した。
 この国で第二位の地位にあるのは王妃であり、その力は王にも匹敵する。法を収めたプレトリウス王大典には“王が誤った路に民を導かぬよう、王妃が
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