騎士の章
V
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うか。ではお前も席に着くのじゃ。この二人に紹介せねばならぬからのぅ。」
クレンと呼ばれた執事らしきその男性は、公の言葉に難色を示した。
「公爵様、私は…」
彼がそう言い掛けた時、公は苦笑いしながら言った。
「分かっておる。仕事の最中と申すのであろう?これも仕事の内じゃ、さぁ席に着け。」
言われた男性は仕方ないといった風に溜め息を一つ零して席に着いた。
それを見た公は満足気に顎髭を撫でながら、エルンストに向かって彼を紹介したのである。
「食事を始める前に紹介しておこうかのぅ。前に座るは我が執事であるクレンじゃ。」
そう唐突に紹介されたクレンはそれに動じず、スッと席を立って頭を下げた。
「ヨーン・ファン=クレンと申します。以後、お見知りおきを。」
明るい日差しの差し込む食堂で、彼の美しさは奇異なるものにも見えた。だが、それよりも二人は、彼の名前に驚いてしまったのである。
「ヨーンって…もしや、ヨハネス皇国の…。」
このプレトリウスに於て、名前にヨハネスの略字やそれに関する名前は使わないのが普通であった。
しかし、そうであれば地方とて、爵位ある者の下に仕えさせるなど聞いたこともないのである。
「驚かれたことと存じます。私はヨハネス皇国出身なのですから。ですが、私は故郷を捨てた身。そんな私を拾い、公爵様に仕えさせて下さったのは、他ならぬベルク様なのです。」
クレンはそう説明すると、軽く一礼して再び席に座った。
前の二人は何だか意味が分からず、公が微笑みを浮かべながら言葉を繋いだ。
「まぁ、分からんのも無理ないのぅ。あやつは関わった者達のこともあまり口にせんやつだからの。どれ、先ずはわしのことから話すとしようか。」
手短に話せば、こうである。
未だ公も若かった時分、隣国のヨハネスへ供を連れて旅をしたことがあった。
意気揚揚と旅を満喫し、いざ帰ろうと国境近くのステファナという村を出た。
前日のひどい雨で地面はぬかるんでいたが、日が良く照っていたために先を急ぐことにしたのである。
だが、途中の山道で土砂崩れに巻き込まれ、危うく命を落しかねなかったことがあったのだ。
公は谷へ落ちてしまったのだが、奇跡的に柔かい枯葉の積もった岩の上に落ち、大した怪我もせずにすんだ。だが、上では供の者が怪我をしている様子で、呼んでも返答が返ってこなかったのである。
「さすがにわしも困ってしまってのぅ。登ることも出来ぬ急な崖で、下の谷川は先の雨で増水しておる始末じゃ。そこへベルクが通り掛かったのじゃよ。天の采配とは良く言ったものだのぅ。」
公一行を見つけたベルクは、一先ず公の供等を手当てし、その後、荷物から縄を取り出して難なく公を助けだしたのだという。
それ以降、ベルクとは付き合いがあり、今でも書簡のや
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