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SNOW ROSE
騎士の章
V
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 リグの街を出てから、約一ヵ月半が過ぎていた。
 今、二人の目の前には、この国第三の街メルの大門が見えてきていた。
 二人は何事も無く抜けられると考えていたが、通行証を見せるなり「公がお呼びです。直ぐに館へお越しください。」と、そのまま馬車へと放り込まれてしまったのである。
「一体どういうことなんだ?」
 マルスは馬車の中で首を傾げエルンストに問ってみたが、彼もまた予想外の出来事に戸惑っていた。
 暫らくの後、静かに馬車が停まった。どうやら着いたようである。
「二人とも、よう来られた。」
 そう言って年老いた男性が出迎えてくれた。この人物がケルテス公である。正式にはベッツェン公爵エギーディウス・ヴァン・ケルテス=アンハルトである。
 公の姿を見たエルンストは即座に膝を折って領主への礼を取ったが、公は「礼を取らずともよい。」と言って、エルンストへ手を差し伸べた。
「相変わらずですね、ケルテス公殿。」
 そう言うや、エルンストは笑って公の手を取り、立ち上がって言った。
「誠にお久しぶりです。しかしながら、公自らお出迎えなさらずとも宜しかったでしょうに。」
 隣に礼を取っているマルスも、それは不思議に感じていた。位が自らと同等であるか、あるいは上位であるならばともかく、下位にあたる自分達を自ら出迎えるなどありえない。
「そなたがマルスか。そう鯱張らんでも良いから、楽にしてくれ。」
 考えていることが見透かされているのか、公はマルスにも手を差し伸べ、立ち上がるように促したのであった。
 だがマルスは驚いて目を見開いてしまったのであった。
「失礼ながら、私目の名を何故…?」
 名乗ってないのだから当然の反応であろう。ケルテス公はにこやかにその理由を話した。
「ベルクより書簡が届いておったのだ。あやつとは長い付き合いでのぅ。どうせわしの事は聞いてはおらんだろうがな…。」
 アンナから少し話しは聞いていたが、まさかベッツェン公爵のこととは思わなかったマルスは、ただただ恐縮するばかりであった。
「ここではなんだ、中に食事を用意してある。そちらで話すとしよう。」
 公は二人にそう言うと、後ろに控えていた執事らしき人物に向き直り指示を出した。執事らしき人物はすぐにその場を去り、それから三人は館内にある食堂へ向かったのであった。
 食堂へ着く合間、広い廊下には多くの肖像が飾られていた。その中の一枚に、エルンストに似た人物の肖像があり、マルスはそれに目を留めた。
 かなり古い絵であることが見て取れたが、気になる程度で尋ねる程でもないと思い、それを口にすることはなかった。
 食堂へ着くと、先程の執事らしき人物が待っていた。
「クレン、あれはあったか?」
「はい、公爵様。七本ございましたので、内五本を用意してございます。」
「そ
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