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SNOW ROSE
騎士の章
U
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 二人がリリーの街を出発してから十日程が過ぎた。
 世は相も変わらず夏のうだるような熱さが続き、心地よい秋は暫くお預けと言ったところある。

 さて、二人は小さな村を二つ三つ立ち寄った他は野宿で旅していたが、なんとかリグの街に入ることが出来た。
 ここはリリーと共にハウリスト・フレミング伯が治める土地である。前男爵の投げ遣りな治世に比べると、それとは比較にならぬ程の発展を見せていた。
 街に入るや二人は早々に宿を決め、各自で必要物資の調達に出掛けることにした。この街に立ち寄ったのも、物資の不足からである。
 まずマルスは古着屋を探し、そこで上着を見た。彼の上着はもうボロボロになっていたため、予備を含め三着購入したのであった。
 上着を買って直ぐにマルスは外へ出たが、その店の正面にあった小さな花屋が気にかかった。
 彼はそちらへと歩み寄り、なんとはなしに見てみると、一角に白い花があるのが目に留まった。
 マルスはそれが気になり、近づいて手に取ってみた。
「なんだ…造花か…。」
 マルスが手にしたものは、白い薔薇の造花であった。
「なんだってこんなもんが…?」
 そう言ってマジマジとその造花を見ていると、奥から店主らしき男性が姿を見せた。
「お客さま、それが気に掛かりましたか?」
 その男性は小柄で、いかにも花好きといった風情を持っていた。
 マルスがキョトンとしていると、「これは失礼しました。」と言って軽く挨拶をした。その後、男性はマルスの持っている造花を指して「宜しければお持ちください。」と、ニッコリ微笑んで言ったのであった。
「いやぁ、別にそんなつもりでは…。」
 マルスは恐縮し少々顔を赤くしたが、男性はまぁまぁと言って話しをしだした。
「これは旅人の無事を祈るために造ってるんですよ。白い薔薇なぞ在りもしないのですが、伝説の女神にあやかって旅人に差し上げております。」
 この話は広く知られた伝承であった。プレトリウス王国の北の町、メルテに伝わる兄弟の伝説である。
 一説によると、この兄弟の墓所には伝説の白い薔薇が咲いていたのだと言われ、旅に出る際にこの墓所へ出向いて祈ると、無事に目的地に辿り着けると言われていた。
 しかし、その墓所の在処は現在分からなくなっているのである。
「それで造花をねぇ…。」
 話を聞いたマルスは、手にした白い薔薇の造花をまじまじと見ていたのであった。

 同時刻。
 エルンストは乾物を買うために市場に出向いていた。
「そろそろ補充しておかなければならなかったからな…。」
 一人呟きながら店先で品物を見ていると、どこからか楽器を奏する音が聞こえてきた。

―どこかで聴いたことがあるような…。―

 この音が何処から聞こえてくるのか知りたくなり、エルンストは店の者に
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