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SNOW ROSE
騎士の章
U
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全曲が終わりを告げると、盛大な拍手が沸き起こった。楽団員は客席に向かいお辞儀をしている。
「マルス、たまにはこういうのも良いだろう?」
 エルンストが聞いてきた。
「そうだな。ま、気分転換には丁度いい。」
 マルスは以前聴いたことがあることは言わず、言葉を濁したのであった。どう考えても茶化されるのが落ちだからである。
 そうこうしているうちに、見物料を少年の団員が回収しに回ってきた。
 この時代、細かい料金設定はされてなく、聴いた人物の主観が支払われていた。よって、その日の稼ぎはマチマチであったのである。
「いかがでしたか?」
 少年は二人の前に来てそう言うと、中程の箱を差し出した。この中に入れるのである。
 先ずエルンストが銅貨五枚を入れた。次いでマルスが入れたのであるが…。
「こ、こんなにいいんですかっ!?」
 少年はマルスの入れた代価を見て驚いた。それもそのはずである。銀貨三枚を入れたのだから。
 それを見たエルンストも仰天した。全夜聴きに来たとしても、銅貨十五、六枚が精々であるからだ。
 しかしマルスは気にもせず、目の前の少年にこう告げたのであった。
「もう一曲、何かやってもらえるか?」
 要はアンコールである。その言葉を聞いた少年は、嬉々として「お易いご用です!」と言い、楽団のもとへ駆けて行った。
 少年から話しを受けた楽長らしき人物は、マルスへ向かって礼を取り、楽団員を持ち場に付かせた。
「お客様よりご要望があり、後一曲演奏致します。曲はJ.レヴィンのカンタータ“恵まれしサッハルよ、汝の幸いを広めよ”です。」
 男性がそう言うと、客席から拍手が起こった。そして、その男性が楽団へ向き直ると拍手は止み、静かに演奏が始まった。
 この曲は、とある男爵のために書かれた表敬のためのカンタータで、J.レヴィン最期の作品とされているものである。
「美しいものだな…。」
 マルスが隣に座るエルンストに言うと、エルンストは溜め息混じりに言ってきたのであった。
「君には驚かされる。まさかカンタータを一つ丸ごと演奏させるとはね。」
 この日の楽団の稼ぎは、前日の四倍近かったという。マルスが頼んだアンコールにも、殆どの観客が代価を支払ったからである。
 この後、この楽団は“レヴィン・コレギウム”と名乗り、サッハルを中心に活躍することとなる。
 マルスとエルンストの二人は、曲が終わると早々に劇場を後にした。翌日の昼前には予定通りにこの街を出て、次の街へと向かったのである。

 次のバルハの街を抜けてメルの街に着くまでは何事もなかったが、メルの街にて新たな展開が待ち受けていた。

 だが、今の二人は何も知らないのである。




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