暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
騎士の章
U
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
しかしなぁ、白い薔薇とは…。伝説上の花を、よく創ったものだ。」
 経緯を聞いたエルンストはその造花をじっと見ていたが、ふと乾物の店での話を思い出し、マルスに提案を持ちかけた。
「なぁ、マルス。今から野外劇場に足を運んでみないか?」
 それを聞いたマルスは唖然とし、怪訝な顔をして言った。
「エルンスト…お前、熱でもあるのか?」
 そう言われたエルンストは苦笑いし、今度はこちらが乾物店での話しをしたのであった。
 話しを聞いたマルスは頷き、それではと行ってみることになったのである。
 日は地平に落ち、月が大地を淡く照らしている。その中で、多くの明かりを灯された野外劇場が、一際美しい姿を見せていた。
 全体に花崗岩や大理石が使われた豪奢な造りで、周囲は彫刻で飾られた立派なものであった。
 そこから歌声が聞こえてきていた。どうやら今日は声楽曲の演奏の様である。
 二人は空いていた外側の端の席に腰を下ろした。
「今日はオラトリオだったか。」
 エルンストは知っている様子で、ボソッと呟いた。
 オラトリオとは、簡単に言えば背景や衣装、振り付けの無い歌劇である。もっと細かく言えば、宗教的ないし瞑想的な性格をもった長い台本に基づき、独唱、合唱および管弦楽によって奏されるものを言う。
 ここで演奏されていたのは、M.レヴィンのオラトリオ「時の王とエフィーリア」であった。全三部の大作で、普通は三夜に渡って演奏されるが、今夜はその終わりを飾る第三部であった。
 マルスもこの曲は知っていた。リリーの街でも演奏され、それをアンナと聞きに行ったことがあったからだ。
 それはさておき、二人は暫らく演奏に聴き入っていた。
 内容は、伝説の騎士とその恋人の物語であり、一般的には<白薔薇の伝説>として知られているものである。
 オラトリオも終盤に入り、アルトがレシタティーヴを歌う。

 数多の叙勲を受けし騎士あり
 彼の者の心は此処に在らず
 愛しき人への想いを抱き
 遠き彼方へと飛んでいるのだ

 そのレシタティーヴの伴奏が静かに終えると、二本のオーボエ・ダモーレとリュートを伴うテノールのアリアが続いた。

 走れ、駆けろ!この想いと共に!
 わが心は懐かしき故郷へと続くのだ
 飛べ、羽撃け!この愛と共に!
 愛しき人の待つ場所へと急ぐのだ!
 何を躊躇うことがある?
 われは愛する人とあるために
 この日を待ちわびていたのだから!

 この後、マルスが唯一嫌いな場面があった。
 主人公は二人とも死に、墓に埋葬されてしまうところである。

―ハッピーエンドにすればいいのにさ…。―

 そうマルスは思ったが、伝説まで変えられるわけもなく、オラトリオの終曲合唱「ああ、汝らのために祈ろう」が高らかに歌われていた。
 
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ