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SNOW ROSE
騎士の章
I
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たかったのだ。
 だが、マルスが口を開きかけた時、突如アンナが抱きついてきたのである。
「ア、アンナ!?」
 あまりに唐突なことだったので、マルスは慌ててしまった。アンナがこんな行動をとるなんて考えてもいなかったのだ。
 マルスは自分にしがみつくアンナを見つめ、軽く溜め息を吐いて抱き締めた。
「ほんとに…すまない。」
「まったくよ!私がどう思ってるかなんて全然気付かないんだもの!それなのに…。」
 アンナは泣いているようであった。
 いつも気丈に振る舞っていたアンナであるが、こうしてみると案外小柄なんだなと、マルスは今更のように感じていた。
 そしてマルスは、そんなアンナに静かに告げたのである。
「ほんとは…気付いてたんだ。俺だって、いつ告げようかって考えてたんだけどさ…。」
 そう告げられたアンナは、マルスの胸に伏せていた顔を上げ、マルスの顔を見上げた。
 大きな瞳は涙で濡れていたが、マルスがその涙をそっと拭った。
「アンナ、俺はお前のことが好きだ…。」
 そう告白するや、何か言おうとしていたアンナの唇に、マルスはそっと自らの唇を重ね合わせたのであった。
「こんな身勝手な男だが…待っていてくれるか?」
 今までにない程の真剣な顔付で、マルスはアンナを見つめていた。
 天高く輝く月が、そんなマルスの精悍な顔をより一層際立たせ、アンナは彼の顔から目が離せずにいた。
 ここで瞳を閉じてしまったら、すぐにでも消えてしまいそうであったからだ。
 マルスは待った。
 どんな返事だって構わない。良かれ悪しかれ、それがアンナの意志であるならば…。
 暫らくの後、アンナは意を決したように口を開いた。
「待ってる…。いつまでだって、待ち続けるわ。だから…帰ってきて…。」
 それがアンナの返事だった。
「ああ、必ず帰ってくる。アンナがここにいる限り、俺は必ず戻ってくる。」
 そう言うと、マルスは再びアンナの紅い唇に、自らの唇を重ね合わせたのであった。

 翌日の早朝。
 まだ夜も明け切らぬ時刻に、マルスとエルンストは旅支度を整えて食堂へと降りた。
「立つんだな。」
 突然声を掛けられ、二人は驚いてしまった。
 見ると、厨房にベルクとアンナが立っていたのである。
「ねぇ、マルス?昨日の晩には夜が明けてからって、言ってなかったかしら?」
 そう、昨日はあの後、旅に出ることをベルクに告げに行ったのだ。エルンストが先に行っていたので、話しはすぐにまとまった。
 その時は確かに、陽が昇ってから立つと伝えていた。
 しかし、お見通しだったようである。
「爺のカンを甘くみるなよ?小僧共にはまだまだ負けんは。」
 マルスとエルンストの二人は苦笑いし、背負っていた荷物一先ず床に置いた。
 それを見たベルクは、二人に食堂の
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