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SNOW ROSE
騎士の章
I
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的な条約締結を約束したのであった。
 逆に言えば、王である父や第一王位継承者の兄よりも優位に立たせことになるのだが、それだけの技量を見込んでのことだったのかは定かではない。
 しかし、将来性を感じさせなければ成し得ないことだったであろう。
 それから数日、帰国の途についた彼らを不運が待ち構えていた。
 時の砂漠で盗賊に奇襲されたのである。
 モルヴェリから出た直後、王子を囲みながら護衛に当たっていた騎士の前に、突然もうもうたる煙があがった。
 騎士達は王子を護るべく剣を抜き放ったが、煙が収まる頃には、既に王子の姿はなかったのであった。
 最初から王子だけが目当てだったのである。
 近くの岩影から、数十騎の馬の足跡が帝都の方角へ向かっていたため、騎士達は即座に後を追ったが、帝都に着いた時には、王子は既に保護されていた後だった。
 王子の言葉によれば、助け人の特徴は紅く長い髪、長身で体格は良く、大剣を使いこなすと言うことだけで、名を聞くことは出来なかったと言う。
 この話しはいずれ語ることとなるので、話しを戻そう。

「アルフレート様は自ら名乗ることを許されなかったため、君の名を問うことも出来なかったと、大いに後悔しておられた。館に迎えたいとは、その時の礼も兼ねてのことなのだ。是非ともお越し願いたい。」
 エルンストはマルスに詰め寄り懇願してきた。半年も探し続けていたのだから、致し方ないだろう。尤も…半年で見つかったのだから、これは幸運とも言えようが。
 当のマルスは他に何かあるのだと察してはいたが、それを問い質そうとは思わなかった。
「まぁ、訪問するくらいならな。一緒に行こう。」
 気軽に答えたマルスだったが、その時ふと…後ろから声を掛けられた。
「行っちゃうの?」
 声の主はアンナであった。
 月影に照らし出されたアンナはどこか淋しげで、いつもの気丈さが感じられない。
 マルスは気まずそうにアンナに言った。
「すまない。俺は…。」
「いいの。いつかこうなるって、分かってはいたんだもの…。」
 弁解を口にしようとしたマルスであったが、アンナはそれを制したのであった。
「マルスだって元は旅人だもの。ずっと一緒に居られるなんて、思ってなんかなかったわ。」
 周囲には夏花の香りが舞っている。アンナは月明かりの中の二人のもとへ歩み寄り、一呼吸してから聞いた。
「いつ立つの?」
 一瞬、マルスは返答に詰まったが、エルンストを見て頷き、向き直って静かな口調で答えた。
「明日にでも出発しようと思ってる。」
 答えを聞いたアンナは俯いて、「そう…。」と呟いた。
 それを見たエルンストは、二人の傍をそっと離れたのであった。彼なりの気配りである。
 マルスは、そんなエルンストに心の中で礼を言った。アンナと二人きりで話し
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