騎士の章
I
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の回転も良くなったし。前は注文取るのも一苦労だったってのになぁ。」
賄いの肉料理を作りながら、マルスはしみじみと言った。それを聞いたベルクは、笑ってマルスに答えたのであった。
「まったくだ。下手すると店ん外まで客が並んでたからな。エルのやつ、もう一月経っちまったってのに、立つのを先延ばしにしてくれるなんてなぁ…。ま、こっちは有り難いがな。」
ベルクは皿に付け合わせを盛り付けながら言っていたが、そこにアンナが言い返した。
「でも父さん、いつまでも引き留めておくのはどうかと思うわ。エルンストさんだって、何か目的があって旅をしてるようだし。ここで足止めっていうのはねぇ…。」
三人は傾きかけた太陽の陽射しを見つめた。
そんなところへ、掃除を終えたエルンストが入ってきた。
「やっと終わりました。って、何ですか?静まり返って…。」
いつもと違い静かな厨房に、エルンストは首を傾げたのであった。
ベルクはそっと笑って、そんなエルンストに声を掛けた。
「いや、何でもない。お疲れさん、それじゃ飯にしよう!」
ベルクの声を合図に、またいつもの賑やかな風景に戻った。
「俺もう腹減ってフラフラっすよ…。」
マルスが無気力な声で言ったので、三人は思わず笑ってしまった。
「だらしないわね!父さん、ドナが五本入ってたでしょ?あれ開けていい?」
「ま、いいかな。疲れてる時、あの木苺の酒は良い。」
ベルクの許可が出たので、マルスはグラスを、アンナはワインを取り出した。
ベルクは食事を運び終えると席に着き、マルスもアンナも続いて席に着いた。
しかし、エルンストだけが目を丸くしたまま立ち尽くしていたのである。
「どうしたんだ、エル?腹でも痛いのか?」
エルンストを見て、マルスが心配そうに言った。
「いや、そうじゃない。ただ…ドナと言いましたか?」
「ああ、ドナだけど?それがどうかしたか?」
マルスは訳が分からず首を傾げた。
「マルス…ドナが一本いくらするのか知ってるか?」
顔を引き攣らせながらエルンストがマルスを見ると、マルスは真顔で「知らん。」と答えたのであった。そんなマルスに、エルンストは溜め息混じりに言った。
「金貨二枚だ…。」
「ハァ!?」
値を聞いたマルスは、驚きのあまり立ち上がったのであった。
この時代、銅貨三枚で一食分である。銅貨五十枚で銀貨一枚、銀貨五十枚で金貨一枚…。
マルスは青くなってしまった。今の彼の賃金は、月銀貨十二枚。諸経費を引いて残るのは、月に銀貨四枚弱だ。一年貯めても金貨一枚にすらならない…。
「ベ、ベルクの親父よぅ…そんな高いもん…。」
止めるつもりで振り向いたマルスであったが、その瞬間に“ポンッ”とコルクの抜けた音が響いた。
「ん?二人とも何固まってんだ?さ、飲ん
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