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SNOW ROSE
騎士の章
I
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税人、こともあろうに税を釣り上げ、かなりの上前を着服していたのであった。そのため、街に暮らす者の生活は厳しくなり、犯罪も横行していたのであった。
 民は男爵に嘆願したのであるが、証拠が無いと言われて退けられ続けていた。
 そんなときに現れたのがベルクであった。彼は取税人の館に忍び込み、表と裏の帳簿を証拠として持ち出したのである。
 この取税人の不正を許せなかったのだという。
 その帳簿は男爵にではなく、王家に縁のあるヴァン・ケルテス公爵の元に届けられた。隠滅されないためであるが、ベルクにも少なからず縁のある人物だったからに他ならない。
 この件は直ぐに王家に伝わり、男爵は領地と爵位を、取税人は土地と財産を没収されたのであった。
 一歩間違えれば命を落としかねない状況ではあったベルクだが、公爵の懸命な弁明によりお咎めなしとなった。
 ベルクとヴァン・ケルテス公爵の間柄については、いずれ語ることにしよう。

 さて、街を救ったのはなにも正義感だけではなく、自らの居場所を作りたかったベルクの一世一代の勝負でもあった。
 この事件以降、街の者はベルクを信頼し、彼を民長に推薦したが彼は受け付けず、それならばと土地と家屋を提供するに留まった。
 それが宿屋“ゴールトベルク”の原型である。

 少しばかり話が逸れたが、昼の喧騒が収まり夕刻も押し迫る頃のこと。一人の旅人がこの宿を訪れた。
「今晩から一月ほど滞在したいのだが、部屋はあるか?」
 薄汚れた旅衣装に身を包んではいたが、腰に吊った長剣がただの旅人ではないことを物語っていた。
 その剣には薔薇の意匠が施され、衣服とは違い磨き上げられていたのである。
 その旅人に対応したのはアンナであった。
「いらっしゃい。部屋は空いてるけど、一ヵ月ですか…。食事はどうしますか?」
 記入帳を差出しながらアンナが聞くと、彼は指で頬を掻きながら恥ずかしそうに返答してきた。
「お願いしたいのは山々なんだが…生憎持ち合わせが少なくて。今は宿代で手一杯なんだ。明日にでも仕事が見つかれば頼みたいんだがな。」
 何とも言い難い顔である。厨房の掃除をしながら聞いたマルスは、今洗い場で皿を拭いているベルクにそれとなく聞いてみた。
「なぁ、あいつ雇ってみること出来ないか?一月分前払いして職探しなんてよぅ…ここら辺のこと知らねぇみたいだしさぁ…。」
 そんなマルスの問いにベルクは手を休め、少しばかり上を見上げて考えていた。
 暫らくすると二、三度頷き、マルスに返答してきた。
「いいんじゃねぇか?人手なんていくらあっても足んねぇしな。まぁ、あいつに何が出来るか知らんが、薪割りや水汲み位は出来るだろうよ。一月くれぇだったら、それで飯ぐらい出してやれる。マルス、ちょっと行って話してこいや。」
 自分は皿を拭か
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