騎士の章
I
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入ってるんだ?」
前掛けを着けて腕まくりをしながら、マルスは現在の状況を聞いた。
「オーダーが入ってるのは5〜19迄で、チキンが三のビーフが七、マトンが一のフィッシュ四よ。多分、倍になるわ。」
そう言って溜め息を吐き、アンナは客席に向かった。
客席に出たアンナは手慣れたもので、次々にオーダーを取って行き、その合間を縫って飲み物を運んでいる。
「マルス、チキンはどうだ?付け合わせは出来てる。出せそうか?」
「充分焼けてる。」
ベルクの声に返答すると、マルスは皿を用意してチキンを焼窯から出した。それを盛り付けてソースをかける。
「アンナ、チキンが出来たから持ってってくれ!」
完成を知ったベルクがアンナを呼び、アンナはそれを取りに戻って来た。
「あとどれくらいだ?」
ベルクはアンナに確認すると、アンナはケロッと言ってきた。
「チキン五、ビーフ八、フィッシュ十のサラダ七よ。」
メニューが絞ってあるから良いものの、これを聞いた二人は顔を引き攣らせてしまった。
「もう飲み物は出したから、サラダと付け合わせ作ったら洗い場に入るわね。マルス、チキンとフィッシュを急いでね。出来た端から持ってくから。」
隣を見れば洗い物の山。目の前にはオーダーの山…。
マルスはいつも考えているのだが、ここはもう一人働き手が欲しいところである。
味は評判が高いし、それくらいの余裕はあるだろう。
それだけではない。ここは<宿屋>なのだ。そちらの支度も整えておかねばらならいのだから、万年人不足と言えよう。
マルスがここに来る以前に二人ほど雇っていたのだが、訳あって南にあるルカ島へ旅に出たのだと言う。
要は、この二人も旅人だったのである。
ここの主人であるベルクが、以前は金山の坑夫だったことは既に語ったが、そのためか、こういう短期で働く旅人や渡来者を多く雇ってきていた。そのため、ベルクとアンナしかいないということもしばしばあったのである。
それではこの街の者ではどうかと言うことなのだが、ベルクがそれを由としないのである。
決してこの街の者が嫌いだ…と言うわけではない。ただ、自分を受け入れてくれた街の人々を“雇う”ということに抵抗があるのだ。
それがベルクという人物の人柄であった。それ故、この街の者は彼のことを親しみをこめて「ベルク」と呼んでいるのである。
正式には「ベルケッツェ」と言う名だが、誰も彼のフルネームを知らない。この名さえ本当かどうか疑わしいとさえ言われている。
しかしながら、彼がこの土地に来てからこれまでの間、この街に与えた恩恵は計り知れない。
彼がこのリリーの街に来る前は、ここはひどい状態に置かれていた。
当時この街を治めていた男爵が、取税人に管理を任せていたためである。
この取
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