意志
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だ私はアクーナの皆の事を思い返し、ポツンと取り残されたような寂しさを感じた。
「若い女が『墓が似合う』なんて、思っても言わない方が良い。一人の男として、聞いてるこっちが辛い」
隣から大人の男性らしい低い声が聞こえ、そちらに視線を向ける。そこには只者ではない雰囲気がその身から自然と漂い、動きやすそうな黒いスーツを着てバンダナが似合いそうな初老の男がいた。
「あなたは?」
「俺……俺は……そう、戦場カメラマンだ」
「カメラマンさん? それにしては身体が無駄なく鍛えられてるように見えるけど……」
「元軍人なんだ。退役してもトレーニングの習慣が残っててな」
「そうですか……。それでカメラマンさんがどうしてここに?」
「知り合いが……いるんだ。この墓に、昔から因縁がある男の……」
「あ……ごめんなさい。ここに来る以上、目的は普通そうですよね」
「いや、いい。仕事柄、こういう所に縁があるだけだ」
そういってカメラマンさんは舗装された道から少し中に入った、無骨な墓石の前に立った。私も何となくついていって、その墓石に書かれてある碑文を見てみたら、名前ではなく固有名詞が書かれてあった。
『戦火に忠を尽くした英雄 アウターヘブンに眠る』
アウターヘブン? はて……なんか同じ言葉を最近どこかで聞いたような……。そう考えている隣で、カメラマンさんはその墓石の前でゆっくり敬礼をする。
「はるか昔から……人の世は戦争と隣り合わせだった。どれだけ血を流しても、戦争がこの世から消える事は決してなかった。それでも……例え全てを失うとしても、大切なモノだけは守りきるために命を賭していった者達がいた。歴史に残る程の功績ではない以上、彼らの意志が世に知られる事は無いが……彼らは確かに存在していた。次の世代に託すために、戦い抜いた英雄達がいた。彼らは政治や誰かに利用されながらも、戦う事しか出来なくても、いつも自分の意思で戦ってきた。語られる事の無い……知られざる戦い。平和の中では、最も埋もれて消えやすい尊い意志。俺は……そういった者達の意志を後世に伝えるために、この仕事をしている。俺には……その義務がある」
「…………後世に……意志を伝える……」
「この仕事をしていると、親しい人間の死を看取る事が多い。何度経験しても、その苦しさ哀しさに慣れるような事は無い。だが……それでいいんだ」
「?」
「彼らを失う痛みがあるからこそ、彼らの死を実感し、彼らの想いを継承する事が出来る。別れに慣れる必要は無い、むしろ慣れてはいけないからこそ、痛みを受け入れられるんだ。そしてその哀しさを大切に抱えていれば、いつしか自分を支える力になってくれる」
「哀しさが……支える力? じゃあ……故郷が滅んで、皆燃えて死
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