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逆さの砂時計
解かれる結び目 4
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 自由な村の人達が羨ましかった。
 翔べるわけでもない、飾りでしかない翼が鬱陶しいと。
 何度本気で(わずら)わしく思ったことか。

 なのに、自由になった今、世界が怖い。
 見えるもの、感じるもののすべてが、私の心臓を押し潰そうとする。

「やめて……っ! 私に期待なんかしないで!!」

 甘えてた。
 甘えてたんだ。
 私は何も解ってなかった。
 (かんなぎ)の意味も、一族に求められていたものの大きさも全部。
 理解なんて、少しもできてなかった。

 自由に憧れた。
 恋に目が(くら)んだ。
 夢を得たいと願ってた。
 鳥籠を出たって、その先に行きたい場所なんか無かったのに……!



「最低だわ、私」

 見えない手に絡め取られそうで、堪らず神殿から逃げ出した。
 全力で走って行き着いたのは、吹き貫けた廊下が見える林の中。
 本当は裏門まで行きたかったけど、体力が追いつかなかった。

 柵側へ背中を向けて、適当な木に寄りかかり。
 両膝を胸に引き寄せて抱える。
 廊下を歩いていく女官の数人が、私に気付いたみたいだけど。
 横目にちらりと見ただけで放置してくれた。

 そのほうが私も嬉しい。
 今は、特に。

「父さん……、母さん……」

 二人はいつも、笑ってくれてた。
 敷地内に居ない時のほうが多かったけど。
 悪魔に殺されるまではずっと、私を大切に育ててくれた。

 ねえ。その間、二人もこんな恐怖に耐えていたの?
 戦うって、こういうこと?
 役目を果たせと。
 他人の為に、力を……命を尽くせと。
 見知らぬ不特定多数の他人の為に死ねと言われて、怖くない筈がない。
 それでも、笑っていたの?

「できないよ……そんなの、私にはできないっ……」

 胸が苦しい。
 頬が引き攣る。
 抱えた頭が痛い。
 目蓋をきつく閉じても、涙が溢れて止まらない。

「いやっ……! こんなの、嫌だよぉお……っ!」

「例えば、夕飯の材料を買ってきてと子供に頼んだとしよう。大抵の子供は面倒くさいと嫌がる。当然だね。自分の用事以外で自分の体を動かすのは、子供じゃなくたって至極億劫(おっくう)だ。それは親のほうも重々承知してる」

 …………え?

「これは貴方の為でもあるのよなどと口で説明したところで、その場ですぐ出来上がった夕飯を見られるわけじゃないから、子供の頭では経過と結果が結び付かない。そこで親は考える。この経過を、いかにして子供の頭の中で結果と結び付けようか」

 なに……何を、言ってるの?
 誰……?

「この場合の経過とは買い物であり、結果とは、子供にも有益であるという()()だ。買い物へ行くこと
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