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逆さの砂時計
解かれる結び目 4
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ても、見える景色に変化はない。
 当然だ。
 その音は、()()()()()()()()響いたんだから。

「………う、そ」

 何事かと私を見上げた人達が、不思議そうに首をひねる。

 私は産まれてすぐ、神々の意思によって護られた。
 神殿の敷地からは出られないように、神々の力を行使した制約を幾重(いくえ)にも課せられ、翼も翔べないように制限されていたらしい。
 その理由は、私が生まれ持った力の性質にある。

 『空間』を司る力。

 純粋なる神々にも等しいこの力は、父さんとも母さんとも違う。
 天神(てんじん)の一族に突然現れた、非常に稀で、特異な性質だった。
 そのせいで、私の存在はこの世界に良い影響を与えないと判断されて。
 でも、たった今、解放された。

 これはどういう意味?
 神々は何故、この瞬間に私を解き放したの?
 理由もなくこんなことをされる筈がない。

 深呼吸して、もう一度神々の声に耳を傾ける。
 聴き逃してはいけない。
 慎重に。真剣に。

 神々よ、どうか、真意を……っ!

「……………………」

 …………ダメ。
 神々はもう、こちらを見ていない。
 今日のお役目は終わりなんだわ。

「…………神々のご意思は、言葉を閉ざされました。また明日、来られるがよろしいでしょう」

 焦りを胸に隠し、平静を装って、正面入り口から退席する。
 その途中、お客様の一人が私を見て微笑んだ気がする。
 昨日、遠くから私に気付いて微笑んだ人?
 でも、今はそれどころじゃない。
 早く神殿を出て一人になりたい。

 何故? 神々は、どうして私を解放したの!?
 私は何をしたら良いの!?



「マリア様」
「マリア様だ」

 神殿の正面入り口と正門は、離れてはいるものの、直線上にある。
 敷地の外、礼拝に来ていた村の人達が、入り口から出てきた私を見つけてありがたそうに拝むけど……。
 私は、神々から言葉を預かる伝言役。
 誰を助ける力もない、ここに居るだけの、ただの伝言役なのよ。
 少なくとも、今日のお役目が終わるまではそうだったし。
 これからもそうだろうと思ってた。

 でも、今は違う。
 体中に力が満ちていくのを感じる。
 生まれてから一度として使えなかった、私の本当の力が。

 神々は、この力で、私に何かをさせようとしてる。

「……っ、ぁ……あ……」

 村人の尊敬と崇拝の目が怖い。
 何も告げない神々の意思が怖い。
 マリア様、と頼りすがる声で、背筋に氷が滑り落ちる。

「……ぃや…………、嫌だ……っ」

 神殿から出られないことが恨めしかった。
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