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お母さん狐の冒険
4部分:第四章
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 見ればそこには赤い大きなマフラーがありました。とても綺麗な、お洒落なマフラーでした。
「皆の分も買ったよ。母さんの分もな」
「いやだわ、お父さんたら」
 お母さんはそれを聞いてその細い頬を赤くさせました。
「私は寒いのは平気なのに」
「ははは、けれど悪い気はしないだろう?」
 お父さんはそんなお母さんに笑ってこう言いました。
「もらうのは」
「ええ」
 お母さん狐はにこりと笑ってそれに頷きました。
「特に。あなたにもらえるとね」
「そう言ってもらえると有り難いな。それじゃあ今着けるかい?」
「今?」
「そろそろ寒くなってきたしね」
 お父さん狐はそう言いながら袋からマフラーを出してきました。それはお父さんが今着けているのと全く同じの赤い大きなマフラーでした。
「これでどうかな」
「同じ赤いマフラーね」
「夫婦だからね。ペアでどうかと思って」
 お父さん狐は言いました。
「気に入ってもらえたかな」
「そうね」
 お母さん狐はマフラーを首に巻きながら答えます。
「とても温かいし。それにあなたと同じのだし」
「嬉しい?」
「嬉しくなければこんな顔しないでしょ」
 お母さん狐はこの時は昔の顔に戻っていました。まだ結婚する前の、お父さん狐がまだお父さんになる前でお母さん狐もまだ娘だった頃の顔に戻っていました。
「知ってる癖に」
 そして悪戯っぽく笑ってこう言いました。
「確かにね」
 それにはお父さん狐も笑いました。
「子供達のマフラーも同じ色なの?」
「そうだよ」
 お父さんは答えました。
「皆の分を買ってあるよ、ちゃんとね」
「そう。それじゃあ私と同じね」
「君も手袋はお揃いなのかい」
「黄色い手袋をね。買ってあげたの」
「子供達に」
「そして私達のを。私達のはついでだけれど」
「やっぱり子供達が第一なのか」
「だってそうじゃない。私達は親なのよ」
 もうお母さんの顔に戻っていました。さっきの娘の顔は完全に消えていました。
「子供を第一に考えるのは当然じゃない」
「だから手袋を買いに来たんだね」
「それはあなたもでしょ」
 お父さん狐に顔を向けて言いました。
「マフラーを買ったのは。子供達の為でしょ」
「それはね」
 やっぱりそうでした。見ればお父さん狐の顔もあの頃の若い時の顔からお父さんの顔になっていました。二人はもう若い顔ではなくなっていました。
「やっぱり子供達が寒いだろうと思ったから」
「そうよね。きっと今でも寒い思いをしているわ」
「じゃあ戻るか、家に」
「すぐにね。じゃあ帰りましょう」
「うん」
 二人は手を握り合って家まで帰りました。お母さん狐の子供達の為のささやかな冒険はこうして思いもよらぬ温かい結末で全てを終えたのでした。

お母
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