3部分:第三章
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第三章
「とてもな」
「ならいいんだよ。喜んでくれたらね」
「銭はいいのかい」
「金は天下の回りものじゃないかい」
お通がここで言った言葉はこれでした。
「だからね。いいんだよ」
「そうかい。じゃあ今日はな」
「この油揚げだね」
「食おうぜ」
楽しげな言葉でした。
「これからな」
「わかったよ、それじゃあね」
こうしてです。二人で油揚げを仲良く食べました。そのうえで二人枕を並べて寝ました。そしてその夜源五郎は夢の中で彼と会ったのです。
「もし」
「んっ!?」
「宜しいですか?」
こう彼を呼んできたのです。彼は夢の中で話しています。
「私です」
「ああ、あんたかい」
「はい、私です」
相手が誰かはもうわかっています。そのうえでのやり取りでした。
「私です、あの狐です」
「約束通り来てくれたんだな」
「約束は守らないといけませんから」
父親狐でした。こう彼に言ってきたのです。
「ですから」
「そうかい。律儀だねえ」
「有り難うございます。それでなのですが」
父親狐の言葉が恭しいものになりました。そうしてです。
彼の前にあるものを出してきました。それは。
「んっ、これは」
「お面です」
見れば狐のお面です。白いそこに狐の顔が描かれています。お髭もです。それを出してきたのです。
「狐のお面です」
「これに何かあるってのかい?」
「はい、これを被ればです」
「ああ」
「人であっても自由に変身することができます」
そうだというのです。
「何にでも。自由に変身できるのです」
「へえ、そりゃ凄いな」
源五郎はそれを聞いて面白そうな声をあげました。
「このお面を被ればそれだけでかい」
「はい。如何でしょうか」
お面を差し出したうえでの言葉でした。
「御礼にこれを」
「いや、それだけれどな」
しかしです。ここで源五郎の言葉が神妙なものになりました。
そのうえで、です。こう言ってきたのです。
「あのな」
「はい」
「贅沢を言うがな」
「何でしょうか」
「悪いがもう一つあるか?」
こう父親狐に対して言うのでした。
「もう一つな。あるか?」
「もう一つですか」
「一つだと俺は化けられるよな」
「はい」
「けれど俺だけだからな」
こう言うのです。
「俺だけだからな。女房はなれないからな」
「奥方もですか」
「俺だけ化けても駄目だよ。そんな楽しいことは俺だけ楽しんだら駄目だよ」
「奥方も」
「そうだよ、女房もな」
笑っての言葉でした。
「ちゃんと二人で一緒に化けないとな。女房にも悪いからな」
「成程、そこまで考えてましたか」
狐は彼のその言葉を静かに聞いていました。そして聞き終えてからです。こう彼に対して言っ
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