第三話:違和感の二乗
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「うふふ〜……いっただっきまーす!」
満面の笑みで白米を口へかっ込み、骨を取られて後は齧り付くだけの鮭を、遠慮なく大口を開けて皮ごと食い、お茶代わりなのか揚げのみそ汁を飲む。
実に美味しそうな笑顔だ。
これで本格的に、この飯をまずいと感じているのは、この家でたった俺一人だと言う事になる。
……やはり、今朝の唐突な痛撃が関わっている……?
食事の不味さの所為で考えごとをしていると箸が止まり、親父から「食べるならさっさと食べてしまえ」と言いたげな、常人基準なら射殺す視線と表せる眼光で、此方を遠慮なしに睨みつけて来た。
愛する妻の食事に対し良い感情をいだかず、寧ろソレを蔑ろにされているのだから、怒りがこみ上げてもしょうがないとは思う。
……だがそんな事を思う前に、相手の気持ちを考えて欲しい。この父親は躾は兎も角、各物事に対して自分基準が多い為、それから大きく外れていれば強制しないと気が済まないのだ。
また睨んでやがる……そんなんに俺の心内を知りたいか?
なら俺の舌とアンタの舌を取り変えてみればいい。そうすれば俺の苦心の理由も分かるってもんだ。
「……御馳走様」
お茶でさえ『苦く』て『青臭く』て『渋い』と、三連チャンならぬ三連コンボででもう存在しない食欲を、追い打ちとばかりに新たなる味覚でガリガリ削ってきた。
この後どれだけ無理強いされても、もう何も食えやしねぇ。
俺は大きく深い溜息を吐く。
「あ、ひょとひょと! もっへ兄ひゃん!」
肩に重いモノを感じながら、ドアノブを握ってリビングを出て行こうとすると、楓子が後ろから声を掛けてきた。
つーか……食いながら喋るなっての、アホウが。
汚ねぇなぁ……。
「例のアレ忘れてないよね? ファミレスで待ってるからね!」
「……?」
例のアレ? 一体何の事だ?
記憶の中を探ってみるも、予想外に次ぐ予想外の連続で何に対し悩んでいたかも、そして楓子が何を言っているかも思い出せず、終始頭を書きながら二階に上がるまで、俺は何も思いつかなかった。
そう、二階に上がるまで……。
目の前にある、現実ではまず着ない衣装の数々を見るまでは。
「ああそうか、コスプレの……」
思い出してから早速浮かんできた感情は…… “行きたくねぇ” という怠惰且つ無気力なモノだった。
これで仮に元気があったとしても、コスプレなんてやりたくは無いんだが……というよりも、何時の間に楓子の頼みを承諾した事になっているんだ。
先の物言いは明らかに此方とあちらで合意がかわされたような言い方だった。
まさかとは思う
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