第三話:違和感の二乗
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快感』が喉を駆け抜ける。
お揚げはただギトギトと『しつこく』、滲み出る汁すら緩衝材にもなりはしない。
この料理に、評価と賛否の台詞の投げかけるとして……歯に衣着せねば、単純に “不味い” 。
こんなに不味かったか? お袋の飯は……?
言っておくと、喰えない訳ではない。ちゃんと食べられる。
更に言うなら口に入れる前に限り、各々の香り “だけ” なら心地よいものだ。
食べること自体は可能だが……少なくともこれを進んで食べたいとは、普通思わない。
「……」
だが目の前の親父は、強面を分かりやすく美味そうに歪め、本気で妻に感謝していると言った、優しさを感じる微笑でお袋を見ている。
この人野生動物を思わせる殺気を放ち、そこらのプロレスラーでも叶わない体躯を持つにも拘らず、お袋に頭が上がらない。
だからといって、何も進言しないかと言えば当然そうでは無く、塩加減が濃い時は普通に注意していたし、デザートも出させるのを止めさせてしまう時がそれなりにあった。
親父はこの飯が本当に美味しいと思っている、もしくは感じているのだ。
要するに、俺の舌が可笑しいのだろうか……?
「すまんお袋、今日は一杯で止める」
「え? ………どうしたの麟斗、そんな遠慮しなくてもいいのよ?」
「食欲が無いんだよ……でも、出された分はちゃんと食べる」
「当然だ……ズズ……残すなど罰当たりな行為、優子さんにも失礼だ」
茶をすすりながら親父が念を押すよう言ってくる。信用が無いのかそれとも一々注意せねば気が済まないのか。
まあ、どちらだろうとも……もう慣れたが。
どうにも進まない箸を緩慢な動作で行ったり来たりさせ、ご飯一杯を半分ほど食べ終えた頃、俺の心境とは全く逆な元気の良さで、ドアが勢いよくバタン! と開いた。
「お早うパパママ兄者!」
「……おう」
「あらあら、今日はちゃんと起きられたのね。えらいわ楓子」
「一度二度では駄目だ、何時もこの時間ぐらいに起きなさい」
「は〜い☆」
遅刻に寝坊の常習犯な楓子が、何故だか今日は普通に起きてきた。
……相変わらず頭にガンガンと響く、超を三つ付けても足りないうるせぇ声だ。
正直に言ってこいつが黙っている所など―――譲歩して“大人しくしている所”に変えて考えても、少なくとも俺の記憶には覚えが無い。
中一ぐらいからそれはもう喧しく、家でも外でもしょっちゅう騒いでいやがる。
大袈裟なポーズで大仰な音を立てて椅子に座り、お袋が運んでくるご飯を今か今かと嬉しそうに首を左右に傾け、鼻歌を歌いながら待っていた。
「はい、いっぱい食べてね」
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