第三話:違和感の二乗
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て靴をぬいだ。
リビングからは米のいい匂いが漂い、主菜であろう父親の好物である鮭の塩焼きだと推測できる香りも、俺の鼻をくすぐってきた。
微かにだが恐らくみそ汁も混じっている。
……推測や恐らくが混じっているのは、多少奇妙な香りが混じっているからだが、撃ちの家はそこそこ古いので、別段気にする事ではなかろう。
母親の作るご飯はとても美味しく、プロの料理人にも引けを取らない質だ。出る頻度が高い白米、鮭の塩焼き、お揚げの味噌汁ですら、毎日食べても飽きないぐらいなのだから。
だが、そんな食欲を刺激する香りと、母親の確かな実績とは裏腹に、どうも先の一件で失せたのか食欲が湧いて来ない。
取りあえずは挨拶し損ねて要らないダメージを受けないようにと、手の洗う時もリビングへ戻る時も、頭の中にたった一つの単語を繰り返し浮かべては消し、浮かべては消しを繰り返した。
「ただいま……お早う……『お袋』、『親父』」
「おう、お勤めごくろう」
「御帰りなさい、麟斗」
羆もかくやの風貌を持つ父が無愛想に労い、額の広い和風美人である母がグリルを確認し、ステンレス製の鍋に入れてある中身をかきまぜて、此方を振りむき笑顔をで向かる。
何時もと変わらない、漸く慣れ始めたそんな日常の中に、何故か俺は違和感を感じた。
母の服も背格好も、髪止めも変わっていない。
父の益荒男そのものである気迫も薄れてはいない。
家具の配置も昨日通り。
まず高い確率で寝坊してくる楓子は当然いない。
新たなモノが飾られている様子もない。
……なら、一体何を変だと感じたんだ……?
1人訝しみながらも椅子を引いて座り、親父の顔を真正面に捉えた時……違和感の正体が分かった。
テーブルの上にお茶はある、親父の手元に新聞はある。
だが、肝心な先の匂いの元である『朝食』は―――無い。
(な……!? いや待て、食卓に置いていないだけで……)
俺は言い現わせぬ不安と、それにより募る焦燥に駆られながらも、台所の母の背を見る。
だが……軽く嗅ごうとも鼻孔を強く刺激してくれた、置き場の作法を間違えず並べる為に、今皿へと盛りつけられて筈の食事達の姿は―――俺の思っていたモノとは違う。
焼かれている筈の鮭は『今』グリルへ入れられ、炊き立てのご飯は『まだ』炊飯器の中で、味噌汁に至っては出汁を取り始めた『ばかり』で、味噌は開けたままで『入れられてはいない』。
朝飯は、どれひとつとしてまだ出来上がっては居ないのだ。
嘘だろう……? だってあんなに、旨そうな匂いが俺の鼻をくすぐったじゃないかよ……!?
「如何した麟斗。驚いているようだが」
「
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