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第一章
狐のお面
昔々紀伊の国に源五郎という男がいました。
油揚げが大好きでとにかくいつも食べていました。その彼がいつもの様に油揚げを買ってそのうえでほくほくとして家に帰っているとです。不意に道の端から声が聞こえてきました。
「もし」
「んっ?何だい?」
その声がした方を見るとです。そこにいたのはです。
狐でした。大きな尻尾に赤毛の狐です。その狐の声でした。
「油揚げを持っておられますね」
「そうだけれどそれがどうしたんだい?」
「しかもとても美味しそうですね」
こう源五郎に言うのです。
「匂いが普通の油揚げとは違います」
「おお、それがわかるんだね」
「はい、狐ですので」
狐は油揚げが大好物です。源五郎と同じです。
そしてです。さらに言うのです。
「ですから」
「そうか。それであんたはこの油揚げを食べたいんだね」
「お一つ。宜しいでしょうか」
こう源五郎に対して言いました。
「貴方様さえよかったら」
「いやいや、それは駄目だ」
しかしです。源五郎は笑ってこう狐に返します。
「そんなことは駄目だ、絶対にだ」
「左様ですか。やはりそうですね」
狐は彼のその言葉を受けてです。残念そうな顔で言うのでした。
「図々しいことを言って申し訳ありません」
「一つだなんてとんでもない」
ところがです。ここで源五郎の言葉が変わりました。そして次の言葉は。
「この油揚げ全部あげるさ」
「えっ、まさか」
「そのまさかだよ。ほら、出て来るんだよ」
こう言うとです。その狐の周りに小さな狐達が何匹も出て来たのです。源五郎はその小さな狐達も見てそのうえでにこりと笑って言うのでした。
「子供達だよな」
「はい、そうです」
狐は正直に答えました。
「実は妻もいます」
そしてもう一匹出て来ました。今度は見事な黄色い毛の狐です。源五郎の周りに忽ちのうちに多くの狐達が出て来て囲んできたのである。
「妻です」
「はじめまして」
「狐にはじめましてって言われたのははじめてだな」
何気にそのことも思う源五郎でした。
「まあとにかくだよ」
「はい、とにかくですか」
「一個でそれだけの数だととても足りないだろ」
狐達を見回しながらの言葉です。
「そうだろ?やっぱり」
「それはその」
「分けますので」
「全部あげるさ」
源五郎はにこりと笑って言いました。
「全部な。あげるからさ」
「えっ、全部ですか」
「その油揚げを全部ですか」
「ああ、持って行くといいさ」
笑顔をそのままにしての言葉でした。
「それで家族全員で食べるといいさ」
「しかしそれは」
「貴方が買われたものですし」
「今更何言ってるんだよ。丁
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