第159話 黄承彦がやってくる 前編
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正宗は蔡平のことを伊斗香に確認するように聞いた。
「当然ながら武人らしさは微塵も感じさせない剣技でした。ですが復讐心に執着する者の剣と評するのがふさわしい荒く激しい剣筋でした。あのような者は復讐をなしたとしても、いずれ野垂死ぬでしょう。救いは賊に落ちていないことでしょうか」
伊斗香は正宗に蔡平に対する自分の評価を淡々と述べた。
「蔡平は襄陽城に詳しいのか?」
正宗は陰鬱とした雰囲気を変えようと話題を変えた。しかし、彼は蔡平に興味を抱いているようにも見えた。辛い境遇にありながらも賊に落ちない姿勢に好感を抱いたのかもしれない。
「秋佳は内城や官吏の屋敷が集中する富裕街には詳しいでしょうが、市井の者が暮らす区画について疎いと思います。その点、蔡平は詳しいでしょうね」
「蔡平は父親を殺して、その後どうするつもりなのだ。父親を殺すことしか頭にない者だ。目的を達成したら腑抜けになるかもしれん」
「蔡仲節を襄陽城が陥落するまで拘束して生かしておいてはいかがでしょうか?」
「そんなことはできん。捕虜を連れたまま行軍など面倒なだけだ」
「では蔡平の望み通りに父親を殺させてやればいいのです。蔡平は約束を守る人物です。それに、蔡平は蔡徳珪の計らいで自由に襄陽城を出入りすることができます。非常時である襄陽城であってもです」
伊斗香はどうしても蔡平を使いたいようだ。
「蔡平は蔡徳珪に直接の面識があるのか?」
「いいえ、私が蔡平の身の上を蔡徳珪に話したら、蔡平が自由に襄陽城で物売りができるように取り成したようです。蔡平が売りにくる竹細工は全て買い上げるように部下に命令まで出していました。他家のことなので蔡平の実家に干渉することはありませんでしたが」
正宗は秋佳の件で蔡瑁を鬼畜の権化のように思っていただけに、蔡瑁の行動が意外に写った。
「正宗様、蔡徳珪は蔡平のことを不憫に思って取り成した訳ではありません。名士の一族である蔡氏の血が流れる者が飢えて死なれては困ると考えたからです。私にそう申しておりました」
伊斗香は正宗が勘違いしていると思ったのか、蔡瑁の人間性を正宗に説明した。だが、正宗は伊斗香の言葉に納得している様子ではなかった。蔡瑁が口では情のないことを言っていていたとしても内心まではわからないからだろう。
「仮にそうであろうと蔡平にとって蔡徳珪は恩人であろう。自らの生活を陰ながら支援する恩人を裏切るとは到底思えない。竹細工など作った所で全て売れるものではないだろう。毎回全て売れればおかしいと考え、誰かの意が働いていると考えるのが普通ではないか?」
「蔡平は蔡徳珪が手心を加えていることは知らないはずです。でも感の良い子ですから気付いているかもしれませんね。しかし、蔡徳珪は生を繋ぐ手助けはしても蔡
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