第159話 黄承彦がやってくる 前編
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る人物ようにも思える。
「その者の名は?」
「蔡平と申します」
伊斗香は心当たりのある離反者の名前を告げた。
「どのような人物なのか?」
「蔡姓を名乗っておりますが、蔡氏とは思えない貧しい暮らしぶりでございます」
伊斗香は蔡平についてあまり深く話したくない様子だった。正宗は伊斗香を訝しんだ。
「伊斗香、蔡平は何か問題がある人物なのか?」
「いいえ、間者としては申し分ない人物です。ただ」
「『ただ』何だ?」
「少々込み入った話でして、正宗様がご不快を抱かれないかと思い話すのを躊躇いたしました」
伊斗香は正宗の顔を窺うように言った。
「ここでは話せないことか?」
「……」
伊斗香は沈黙し正宗の顔を窺うように見た。
「朱里、村を襲撃する前に一度兵士達を休ませる。次は蔡徳珪が奇襲を仕掛けてくる可能もある。周囲の警戒を怠らないよう交代で兵士達を休ませよ」
「正宗様、わかりました」
朱里は伊斗香の会話に興味がありそうだったが、正宗から命令を受けたため兵達に指示を出しに馬を走らせた。
「伊斗香、向こうで話すぞ」
正宗はそういうと兵士達が陣幕の設営をしている辺りから少し離れた場所に馬を走らせた。
「ここなら話せるな? 蔡平とはどういう者なのだ」
「蔡平の父は蔡仲節。蔡仲節は次の目標の村長を務める蔡伯節の弟にあたります。蔡平は村の蔡一族から一切の援助を受けておりません。蔡一族は村から追い出す訳にもいかず、村に置いてやっているだけの状態です。そのため日々の暮らしにも苦労しています」
伊斗香はそこで正宗の表情を見て話のを躊躇った。
「どうした? 続けよ」
正宗は伊斗香を訝しみ話を続けるように促した。
「蔡平は娼婦。いえ元娼婦と言うのが正確でしょうか。彼女は自ら望んで、その境遇に落ちた訳ではありません。彼女の父親である蔡仲節は彼女に対して援助を一切しない男でしたが、当初は貧しいながらも慎ましく母娘で暮らしておりました。母親が病に倒れ彼女は父親に援助を頼み込みましたが無碍に追い返され、形振り構わずに娼婦の身に落ちたのです。ですが、気位の高い蔡仲節は彼女が娼婦になったことに激怒して娼婦の仕事ができないように邪魔をしました。おかげで母親は病が悪化して死んだのです。生きる希望を失った彼女を見かねた村の老夫婦が蔡一族に睨まれるのを覚悟で面倒を見るようになりました」
あまりに暗く重い話に正宗は表情を曇らせた。
「そのような境遇の者を使えると思うのか?」
正宗は伊斗香に抗議するように言った。
「村長の実弟である蔡仲節の命を狙っております。彼を殺す機会をあたえると持ちかければ蔡平は協力すると思います」
「何故断言でき
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