第159話 黄承彦がやってくる 前編
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。私が荊州を掌中にしようとも、私の野望のために多くの罪の無い者を屠っていかねばならない」
正宗は泉に振り向くことなく、哀しさが込められた低い声音で泉に話した。
「正宗様」
泉は正宗の心境を察してか哀しい表情で彼の後ろ姿を見つめていた。
「正宗様、これから多くの者達が各々の正義を打ち立て自らの正義のために他を従えんと争いの火種を撒き散らすでしょう。その中において乱れた世を正す役目は誰かが為さなければならないと存じます。今までもこれからも弱き者には生きにくい世にございます。どのような綺麗事を並べようと弱き者は強き者に搾取される定めです。全ては強き者の胸先三寸。弱き者は強き者によって生き方を宿命ずけられてしまいます」
泉は意思の籠った瞳で正宗のことを見ていた。
「私は正宗様に世を正す者であって欲しいと思っています。正宗様は昔仰られたはずです。『皆が飢えることなき世を創りたい』と。目の前の弱き者達の死に哀しもうと歩みを止めることだけはお止めください。彼らをただ犬死させることだけはお止めください。彼らを犠牲にし、死んだ者達の死が意味あるものだったと言えるようにしてください」
泉は正宗に訴えるように言った。泉の言葉はある意味詭弁である。幾ら正宗に殺戮の正当性があろうと、虐殺した事実は変わらない。仕方ないこととはいえ、気持ちの中で完全に割り切れないしこりのようなものがあってもおかしくはない。だが、彼女の言葉は彼女が必死に考えた忌憚無い気持ちなのは間違いない。
正宗は泉の言葉を黙って聞いていた。
「泉、情けないところを見せてしまったな。私はこれからも弱き者を踏みつけ進まねばならない時が来るかもしれない。それでもお前は私について来てくれるか?」
正宗は振り返り泉の顔を見た。彼の発した言葉に泉は微笑んだ。
「私は貴方様が仮に悪鬼に落ちましょうとも付いていかせていただきます」
泉は迷いなく正宗に即答した。正宗と泉の間に静寂が漂うが二人はただじっとしていた。
正宗の表情からは気持ちの整理が出来たのか迷いは無くなっていた。
「この戦で私は荊州を完全に掌握する。この私が生きている限り、二度と荊州に戦は起こさせん。何人も荊州の地を犯させん」
正宗は力強い意思の篭った低い声で自らの決意を口にした。
「満伯寧。微力ながら正宗様をお支えさせていただきます」
彼の決意を聞いた泉は拱手し返事した。その時、どこからともなく一陣の風が吹き抜けた。
正宗の命で蔡孝伝とその家族の首が晒された翌日、正宗は一万九千の兵を率い次の目標である村に向けて兵を進軍していた。泉と榮菜は正宗の命を受け前日の日の出とともに出陣していた。村の住民が襄陽県以外に逃げ込まないように街道を封鎖するためで
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