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逆さの砂時計
解かれる結び目 3
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て、もう一度自室を出る。
 要所に配置された護衛騎士達の目がちらちらと私の姿を窺ってるのは……
 仕方ないわね。それが彼らの仕事だもの。
 付いて来ないだけありがたい。

 お屋敷と裏門の間の林は、正門付近の林とは雰囲気が違う。
 裏門のほうが山頂に近い分、木の数が少なくて風通しも良く涼しいのね。
 それでも、お屋敷がどんと構えてるせいでここからじゃ神殿は見えない。
 お屋敷は全室中庭寄りだから、こちらをじっくり観察される心配もない。
 村人の噂話が聴こえないのは残念だけど。
 それを除けば、快適な休息場所になりそう。
 監視されないって、なんて清々しいのかしら。

「ここなら、エルンストにも簡単には見つけられないわね。ふふっ」

 廊下に出て大回りしてから来たし。
 護衛騎士達も、まさか私が裏門に居るとは思わない筈。
 お屋敷の通路を忙しく往き来する女官達なら気付くかも知れないけど。
 それまでは、自由に羽を伸ばすとしましょう。



「マリア!!」

 ……え……?

「あれ……エルンスト?」

 カンテラの光を反射する綺麗な青色の目が、私を覗き込んでる。
 もう見つけちゃったの?

「ああもう、君って女性(ひと)は……! どうしてこんな場所で眠ってるんだ!」

 え?
 あ、空が真っ黒。
 うそ。
 私、いつの間にか眠ってた?

「なんか、すごく気持ち良くて。つい、うとうとしちゃったみたい」

 風も気温も本当に心地好くて。
 見つからないって思ったら、油断しすぎちゃった。
 木の幹に背中を預けて眠るなんて、生まれて初めてだわ。

 ふわぁあ〜〜……っと欠伸(あくび)しながら両腕を上に伸ばしたら。
 カンテラを地面に置いたエルンストに正面から抱きつかれた。

「ちょっ!? エル!?」
「僕がどれだけ心配したか……もう、黙っていなくなるのはやめてくれ!」
「心配って」

 私が敷地から出られないのは知ってるくせに。
 心配してたの? 私を?
 それで、そんなに必死な顔をしているの?

「…………ごめんなさい」

 走り回ったのかな?
 エルンストの体が熱い。頬に触れた髪がしっとりしてる。
 何故か、すごく悪いことをした後の子供の心境だわ。
 (かんなぎ)のお役目は毎日ちゃんと果たしてるんだし、他の時間はどこに居ても良い筈なんだけど。
 普通に考えて、夜に建物の外で寝るのは感心しないか。

「部屋へ戻ろう」
「ええ」

 体を離し、カンテラを持ち直したエルンストの手を借りて立ち上がる。
 不機嫌そうなのは、私のせい……よね、やっぱり。

「裏門は落ち着けそう?」

 手を引かれたまま着いたお屋敷の近くで。

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