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逆さの砂時計
解かれる結び目 3
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 ふとした瞬間に相手の顔が浮かんでは、落ち着かない気分になって。
 全身がざわざわして。
 嬉しいのか、もどかしいのか、恥ずかしいのか……

 うん。全然理解できない。
 理解はできないけど、憧れた。

 誰かを好きになって、誰かを求めて。
 同じだけ誰かに求められて、身も心も誰かに委ねる。
 それは物凄く不安になることで、息が止まりそうなくらいに怖いこと。

 互いに自分以外を信じて、受け入れて、認め合う。
 それって、どれだけの勇気が必要なのかしら?
 きっと、初めは拒絶してしまう。
 行き違いだって数え切れない。
 許せないと思うこともたくさんあるわ。
 だって、自分と誰かは別人だから。

 考え方も生き方も違ってきた者同士、惹かれ合ったとしても。
 いきなり同じ場所に心を置くなんて不可能だわ。
 相手のすべてを解ったフリなんかしても、必ず見破られると思う。
 所詮は他人なのよ。

 でも、その気持ちの壁を乗り越えて、互いの手を取り合えたら?
 他人同士であることを受け入れ。
 互いの違いを認め合い。
 同じ方向を見つめながら繋いだ手。
 それは多分、灯火のように優しくて、柔らかくて、温かい。

 父さんと母さんがそうだったように。
 誰かを想って泣いたり笑ったりする幸せを、私もいつかは感じてみたい。
 そう……、思ってた。



 真っ白な法衣に、一点だけ色付いた銀のブローチ。
 心臓の位置に付けてみたのは、諦めの悪さの表れかも知れない。

 私は神々に仕える最後の(かんなぎ)
 魔王が存在する限り、誰かとの恋愛は望めない。

 そうでなくても、私の未来は一族の力の未来そのもの。
 結婚して子供を残すか、殺されるまで一人きりで過ごすか。
 それは神々が決めること。
 私自身の意思で身勝手に扱って良いものじゃない。

 それでも。

「誰かを、好きになってみたい、な」

 ブローチの翼を指先でなぞってみる。
 全体に尖った部分がなくて丸っこいのは、私が怪我をしないようにって、彼の配慮よね。
 こういうところも嬉しい。
 本当に、嬉しいのに。

「不毛ね」

 包装紙を小さく折りたたんで、宝箱の形をした小箱にしまう。
 薄紅色のリボンは……そうね。これで髪を結んでみようかしら?
 生まれてからずっと伸ばし放題で、そろそろ鬱陶しくなってたし。
 せっかくの可愛いリボンをこのまま捨てるのも勿体ないわ。

 首筋の辺りでまとめた髪をリボンで縛り、正門付近から離れる。
 お客様が来てるって言ってたから、神殿の近くは避けて林伝いに戻ろう。

 一度伐採してから植樹し直された敷地内の林は。
 柵の外側に広がっている森とは少し様子
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