第40話 暗闇の中を漂う君へ
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俺は必死に歩いている。嵐が吹き荒れる薄暗い町の中を。
「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥」
父の仕事に行った家が少し遠いことは知っている。
前にも何回か言った事があるから道に迷うことはない。
しかし、俺はこのとき考えていなかった。
嵐の中での歩行が、いかに困難な事かを。
「うぅ‥‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥」
雨がフードに覆われていない顔を叩いて来た。
真正面からの向かい風に、身体を前に傾かせたまま
必至に一歩ずつ進んでいた。
「ぷはぁ!ハァ、ハァ、ハァ」
俺は路地裏に急いで逃げ込んだ。
建物が風を防いでくれるので、ここなら安全だった。
俺は息を吸って呼吸を安定させようとした。
しかし、嵐の中の移動で体力をかなり使ったので
なかなか息が整わなかった。
『お父さん、大丈夫かなぁ‥‥‥‥‥』
もしかしたら風でハシゴが傾いたりして
落下して怪我を負ってしまったのかもしれない。
不安が頭の中を歩き回っていた。
俺は頭を横に振って、それを振り払った。
「‥‥‥よし‥‥‥‥ハァ‥‥‥行くぞ‥‥‥」
俺は路地裏から出て再び嵐の中を進み始めた。
**********
ガタガタッ!ガタンッ!ガタガタガタガタッ!
「だいぶ‥‥‥‥‥外は荒れてますね」
そう言いながら、父さんは家の主の奥さんが用意してくれた
おいしそうな料理の内の一つを口の中に入れた。
「あ、このお肉‥‥‥‥とても美味しいです」
父さんはそれを頬張りながら、微笑んで言った。
「お口に合ってよかったです」
「言ったろ?妻の料理はウマいってな」
それを聞いた二人は笑顔でそう言った。
しかし、父さんの顔から不安の表情が抜けることはなかった。
それを見て察した家の主は訊いた。
「やっぱりジェーンちゃんが心配か?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい‥‥‥‥」
父さんは力なくうなずいた。
それを見た家の主は頭を掻いた。
「家が吹き飛ぶほどの嵐じゃないんだ。大丈夫だって」
しかし、父さんの表情は曇ったままだった。
「あの子は少し不幸になりやすい体質で
前にも大雨の日に迎えに来たことがあったんです。
着いた時には、膝や手や顔に擦り傷が出来ていて
行く途中に雨で滑ってこけた時に負ったらしいんです」
父さんはゆっくりと目を瞑って、その時の俺の姿を思い浮かべた。
膝の怪我が特に酷く、赤い血が雨に濡れて滲んでいた。
俺はその痛みに耐えながら、父さんには笑顔を見せていた。
父さんを心配させたくなかったからだ。
しかし、それが逆に父さんの心に刺さったらしく
普段は物静かな父さんが声を荒げて怒った。
その時の事を、俺は今でも忘れていなかっ
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