Vivid編
第一話〜『おはよう』〜
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客観的に彼を言い表すのであれば――――――――
――――――――彼は無色だ。
真水であり、白いキャンバスであり、曇のない鏡である。
それらは何もないからこそ美しく、そして染まりやすい。
真水は容易く濁り、キャンバスは色を重ねられ、鏡は絶えず何かを写していく。
彼は自ら染まり、誰かに染められ、そして周りに順応していく。
それは彼だけ変わっていくのではなく、彼も誰かを変えていく。
そして彼は鮮烈な色合いの日常を歩みだす。
次に彼は何色に染まるのであろうか?
陽の光が部屋に心地よい暖気を生み出す。そして換気のために開けられているその部屋の窓からは、風と窓の外にある庭の土や植物の香りを送り込んでくる。
その風により、窓のカーテンはゆらゆらと小さく揺れる。その部屋には動いているものがそのカーテンしか今はない為、そのカーテンがどこか生き物のように錯覚しそうになる。
部屋は床や壁、天井に至るまでが全て白一色であった。厳密に言えば壁はかなり薄い水色なのだが差し込んでくる日光が生み出す影の具合によって、昼間は色の違いが分かりづらいものとなっている。
そして申し訳程度に置かれている調度品は、どれも白を基調にしている為清潔感というよりは、人工的に造られた美しさがその部屋にはあった。
そんな部屋の主である青年は今、その部屋の中央に据えられたベッドに身を預けていた。
主といっても、ここはある施設の病室のような場所であり、彼もあることがきっかけで寝たきりとなり、この部屋で療養の為に安置されているだけなので主と呼べるのかは微妙なところであったが。
白しかないような、いっそキャンパス然としたその部屋にも他の色は存在する。ベッドには隣り合うように引き出しのついたボックスが設置され、その上には花のいけられた花瓶と畳まれたハンカチに載せられるように二つの根付のようなものが存在した。それらの存在が、白以外の色を持っていることから、その部屋で一際存在感を放っていた。
花瓶の花は瑞々しい力強さと花弁による色彩豊かな美しさがあり、乗せられているボックスにほとんど埃が見られないことから、定期的に手入れがされていることが窺える。
「お邪魔します」
そんな部屋に声が響いた。
スライド式の手動ドアを滑らせ、廊下から入ってきたのはその部屋に眠る人物よりも遥かに小柄な少女であった。その少女は腰にまで届きそうな金髪をツーサイドアップテールにし、セーターと首元にある赤いリボンが特徴的な制服を着込んでいる。そして、最も特徴的なのが、彼女の瞳の色であった。
右目が翠色、左目が紅色。左右で異なる彩色である虹彩異色なのである。元々虹彩異色は犬や猫などに多く見られる症例であり、人間には
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