第十五章 忘却の夢迷宮
第九話 身体は剣で出来ている
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裂けた肩口の隙間から炎が飛び出したのだ。
一瞬にして炎が周囲を包み、同時に生まれた衝撃が士郎の身体を舷縁にまで弾き飛ばした。
「―――ガ、は、ぁ、ぁ、あ……ぁ―――」
舷縁の下、燃える甲板の上に転がるソレ。
それは、最早人の形をしたナニカだった。
服は燃え尽き、全身は黒く焼け焦げている。
呼吸の度、焦げた皮膚が裂け、濁った体液が溢れ出る。
目は完全に白く濁り、誰が見てもその目に何かを映すことは不可能だとわかる。
「ぁ―――ハ、ぁ……」
磨ガラス越しに見るかの様な視界の中、自身の両腕が微かに見える。
腕が―――なかった。
両腕、その肘から先には、なにも、なかった。
完全に炭化し、黒い塊となった腕の断面からは、血液の一滴たりとも出ることなく黒い煙が燻っているだけ。
―――■■aaaaaaaaaっ!! gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!
耳鳴りの向こうから聞こえる叫び。
ワルドの苦しむ声がする。
…………ああ、まいった。
最後の最後、絶世の名剣を振り切る直前。
刹那にも満たない時の狭間に、士郎は見てしまった。
あれは、幻だったのだろうか。
この世界に来て、幾度となく刃を交わしたことで何かしらの思いがあったためか。
目が、合った。
狂気に燃え盛る瞳の奥に、見てしまったのだ。
救いを求める目を。
助けてと、苦しいと、泣き叫ぶかのような目を―――見てしまった。
力を抜く時間はなかった。
あの場で、避ける技量もまた、なかった。
だから、首を切り落とせなかったのは自分が未熟だったからだ。
それでも、やはり、覚悟が鈍ったのは確かである。
―――また、繰り返すのかと……。
救いを求める声に耳を塞ぎ、伸ばされる手を振り払い―――十の為に一を殺すのかと―――。
手を、伸ばす。
炭化した、最早腕として機能しなくなったソレを、肩口を押さえ座り込んだワルドへと伸ばす。
今にも弾けそうな身体を押さえ込むように跪いているワルド。
切り裂かれた肩口を抑える手の隙間から、炎が漏れ出ている。
―――自分には、何もできない。
この身体は、既に立つどころか足の指さえ動かすことさえままならない。
上げようとした腕は、微かに身体が震えるだけでピクリとも動かない。
“聖剣の鞘”がこの身にあっても、この傷を治せるかどうかは不明。
いや、その前にワルドに殺されるか、それとも船が落ちて死ぬかだろう。
既に、痛みは感じていない。
全身の惨状に反し、思考は冷徹なまでに冷静だ。
しかし、その思考も、段々と鈍くなる。
眠る直
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