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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第九話 身体は剣で出来ている
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てあなたは何もしないの……信じるって……それで彼が―――シロウが死んだら……どうするの……何で、信じるだけで我慢できる……」

 胸元に縋り付いてくるタバサの頬を、アンリエッタは両手で包む。

「それは、わたくしが彼を愛しているからです」
「……あい……して……」

 ポカンとした顔で見上げてくるタバサの顔を可愛く思いながら、アンリエッタは今まで浮かべていた聖母の如く微笑を悪戯っぽい笑みへと変えた。

「ええ、あなたと同じように、ね」
「な―――っ!?」

 顔を真っ赤にして慌てて胸元から飛び離れたタバサの様子をクスクスと笑いながら見ていたアンリエッタが、すっと寂しげな顔になると今も戦い続けている燃え盛る船へと視線を向けた。

「本音を言えば、わたくしも今すぐあの場に行きたいです。例え死んでしまうとしても、あの方の傍に一瞬でもいられる方がいい……そう、本気で思っています」
「なら、ならどうして……」
「だから言った筈ですわ。わたくしはシロウさんを愛していると」
「愛しているなら―――」
「わたくしは、彼の全てを受け入れたいのです」
「うけ、いれ、る?」
「……シロウさんの良いところも悪いところも全てを認め、受け入れたいのです」

 アンリエッタは自分で自分の身体を抱きしめた。
 それはまるで、今にも飛び出そうとする自分自身を押さえ込むかのようであった。

「足でまといになると知りながら、彼の下へ行くのはただの我儘でしかありません。例えそれが心の底から彼の力になりたいという願いから来たものでもです」
「そんな、わたしは……」

 否定しようと上げた声は、尻すぼみに消えていく。
 アンリエッタはそっとタバサの髪を梳くように撫でると、その小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

「彼の助けになりたい、彼の下に行きたい、それは全て自分の願いでしかありません。『逃げろ』と言った彼の気持ちを無視したものです」
「でも、でも、それでも―――」

 胸元で弱々しく顔を横に振るタバサを抱きしめながら、アンリエッタは幼子に言い聞かせるようにゆっくりと語りかける。

「信じましょう彼を。シロウさんを―――必ず無事に帰ってくると。勝って必ずわたくしたちの下に帰ってきてくれると」
「そんなこと、わたしには」
「できますよ」
「何で、何でそんなことが……」
「だって、あなたもシロウさんを愛しているのでしょう。なら、きっと信じられる。シロウさんは負けないって」
「ぁ……」

 自分を抱きしめるアンリエッタの腕が細く震えていることに気付いたタバサが、そっと顔を上げる。
 アンリエッタは心配そうに見上げてくるタバサに恥ずかしそうに笑みを向けた。

「わたくしもまだまだですね。でも、それでもわたくしは信じて待
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