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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第九話 身体は剣で出来ている
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ードは慌てた。
 “レビテーション”の魔法でこの灼熱の風が吹き荒れる空を飛ぶことは自殺行為にほかならない。それは魔法に縁のない者でもわかるほどだ。
 普段の冷静さからは信じられないタバサの行動に、シルフィードのタバサを止める手が一瞬遅れる。
 シルフィードの制止の声を振り切り、タバサが燃え上がる船へと飛び上がり―――


 ―――パンッ!


 頬を叩かれた。
 船―――士郎の事しか目に映っていなかったタバサの意識の外から放たれた衝撃は大きく、シルフィードの背中にその小さな身体を倒れさせた。
 
「―――え」 
「ごめんなさい。でも、こうでもしないと止められそうにありませんでしたから」

 タバサの頬を叩いたのは、アンリエッタだった。
 風に煽られ揺れるシルフィードの背中という不安定な足場で立ち上がったためか、直ぐに体勢を崩し膝を折って座り込んだアンリエッタは、呆然と自分を見上げてくるタバサへゆっくりと手を伸ばした。

「シロウさんの下へ行きたいのは痛い程わかります。ですが、それはいけません」

 赤く腫れたタバサの頬をそっと撫でた手を肩に置き、アンリエッタは微笑んだ。
 優しく、そして穏やかな微笑みだ。
 それと同時に強さも感じられるものであった。

「……どう、して。あなたはそんな顔で―――笑っていられる……彼が、シロウが、今にも死にそうなのにッ! どうしてっ!? どうしてそんな顔でいられるのっ!!?」

 何時もを知る者が見れば別人かと見紛う程に感情を爆発させた怒声を放つタバサに、その言葉を向けられる当の本人であるアンリエッタは、浮かべた笑みを深めただけであった。

「あなたは……」
「わたくしには何もできません」

 タバサの瞳を見つめながら、アンリエッタはゆっくりと、穏やかな口調で言葉を向ける。

「王としても、一人の女としても、こんな時でも……わたくしには彼の力にはなれません……」
「それは、それはわたしも同じっ―――でも、だからといってただ見ているしかできないのは嫌っ! 何も出来ないのは、嫌なの―――っ!!」

 幼子のように泣きじゃくりながら首を振るタバサをそっと胸に抱きしめる。
 胸元に縋るようにして泣くタバサの頭を撫でながら、その耳元でアンリエッタは囁く。

「……だから、信じましょう」
「え?」
「何も出来なくとも、信じることは出来ます」

 タバサの両肩に手を置き、ゆっくりと胸元から引き離す。
 そして、涙に濡れた瞳で呆然と見上げてくるタバサににっこりと笑いかけた。 

「わたくしには、それしかできませんから」
「そんなの―――もし、それで彼が死んだら。わたしは耐えられないっ!!」
「ええ、それはわたくしも同じです」
「それなら……どうし
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