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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第九話 身体は剣で出来ている
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可能だったのは、ネロ・カオスが二十七祖という強力な吸血鬼であったからだ。
 脆弱な人間の身体と乏しい魔力では不可能だ。
 それはわかっている。
 しかし、何故か、今は出来る気がしていた。
 




 ―――故に、その剣に銘はなく





 もしかしたら、頭が可笑しくなってしまったのかもしれない。
 不安が欠片もない。
 ただ、溢れんばかりの力が漲っている。
 声が、聞こえる。
 なくなったはずの指先から届く声。
 『信じる』という思いが心に届く。





 ―――その剣に意味はない





 ひび割れる寸前の限界にあった魔力回路に莫大な魔力を注ぎ込む。
 回路の許容量を遥かに超える魔力であったが、何故か溢れる事なく淀みなく回り続ける。





 ―――担い手はここに一人、剣の丘で剣を鍛つ





 身体の奥。
 小さな炎が生まれた。
 そこから、剣が生まれる。
 小さな小さな剣は、次第に全身へと広がっていく。
 焼け焦げ、炭化した身体を切り裂きながら、全身に剣が広がっていく。
 激痛が、全身を走る。
 神経を引き剥がし、一本一本丁寧に裂いているかのような痛みが秒毎に増えていく。
 細胞一つ一つ潰していくかのような痛みに、悲鳴すらが上げる余裕がない。
 激痛に意識を失い、それ以上の激痛に意識を覚醒させる。そしてまた、それ以上の痛みに意識を失う。
 それを僅か一秒の間に幾度となく繰り返す。
 炭化し断裂した肘の断面に、極小の刃の先が現れる。
 腕ごと抉り取りたい痛みと違和感と共に、ズルリと刀身が現れる。
 それがより合わさり、次第に形をなしていく。
 腕へと、掌へと、指へと。
 右腕が現れた。
 左腕が現れた。
 その掌には、絆であるルーンが刻まれていた。
 “ガンダールヴ”のルーンが、輝いていた。
 無手であるはずなのに、ナイフの一つも持っていないにもかかわらず、眩いまでに輝いている。
 やがて光は士郎の全身を覆い尽くすばかりか、焼け落ち地上への落下する速度を早めた船の全てを包み込んだ。
 そして、シルフィードの上で全てを見ていたアンリエッタたちは聞いた。
 耳ではなく、心で。
 愛する男の言葉を―――。






 ―――その身体は、無限の剣で出来ていた









 
 ―――剣。
 
 一人の男が立っている。
 
 その男を見ると、何故か剣を想ってしまう。

 白い髪。

 浅黒い肌。

 漆黒の鎧。

 赤い外套。

 どれも、剣を連想させるものはない。

 しかし、その男を見れば、どうしても剣を想ってしまう。

 剣を連想させる
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