第十五章 忘却の夢迷宮
第九話 身体は剣で出来ている
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れる事すら出来ない花。
なのに触れた。
蒸発し、消えてしまった筈の手で、指先で、士郎は間違いなく触れた。
二輪の花へと、その指先で触れた。
そして、知った。
この花が、自分の為だけに咲いてくれた花であると。
愛しさが、溢れる。
それは、その花からか、それとも自分自身からか。
ないはずの指先から伝わる暖かさが全身を包む。
枯れ果てた大地に暖かな水が染み渡っていくように、淀みなく全身を包んでいく。
指先一つ動かせなかった筈の身体に、力が漲っていく。
子供の頃のような万能感を感じる。
今なら、何でも出来るという確信があった。
その決意が、自然と口から形となって溢れ出す。
―――身体は、剣で出来ている
蘇るのは、かつて凛に言われた言葉。
それは、“固有結界”についての説明を受けていた時のことだった。
もし、今後“固有結界”が使えるようになったとしても、決してしてはいけない使用方法。
それは、世界の干渉を受け、どうしても莫大な魔力を消費してしまう“固有結界”を最小限の魔力で使用するための方法。
“固有結界”の体内展開。
しかし、それは絶対に使用するな、と凛は言った。
―――血肉を鉄に、我は無限の剣を鍛つ
それは、自殺行為と同じであると。
確かに体内で固有結界を展開すれば、世界からの影響を最小限に抑える事は可能である。しかし、だからといってゼロではない。極小規模で短時間であったとしても、その反動は大きく。例え数秒でも死に至る可能性は大きい。
特に士郎の固有結界は暴走する可能性が大きく、その被害は容易に想像出来る。
身体の内側から剣で串刺しにされてしまう。
―――百の願いに鉄を鍛ち
だが、しかし、暴走する刃、自身の身体さえ傷付けようとするその剣を制御する事が出来れば、どうだろうか。
結界から溢れ全身を貫く剣をその身に全て納めることが出来れば、どうだろうか。
―――千の祈りに剣を鍛ち
かつていたと聞く二十七祖の中の一人ネロ・カオス。
其の者は、自身の固有結界を肉体内部に展開することで、世界の修正を逃れて固有結界の永続的な使用を可能にしていたと聞く。“獣王の巣”と呼ばれたその固有結界内には、六百六十六の生命の因子が渦巻いており、既に個ではなく群体であり「混沌」そのものであったという。
それと同じことが、自分には出来ないだろうか。
―――万の救いに、剣と成る
不可能だろう。
それが
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