巻ノ十二 都その四
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「飲む機会があれば」
「そうかも知れませんね」
伊佐もにこりと笑ってだ、幸村に答えた。
「ではその時は」
「うむ、見せてもらおう」
「殿、路銀が尽きてきています」
ここでだ、穴山がまた言って来た。
「ですから都では我等が芸をして」
「そうしてか」
「路銀を稼ぎますので」
「そうしてくれるか」
「はい、幸い我等十人そうした芸は持っています」
穴山も含めてというのだ。
「ですからそうしたことはです」
「安心していいか」
「幾らでも稼いでみせます」
「わかった、では拙者も何かしよう」
「殿もですか」
「刀術を見せる芸程度は出来る筈じゃ」
だからだというのだ。
「それをしてみせよう」
「そうされますか」
「うむ、御主達が働いて拙者は見ているだけではな」
そうしたことはというのだ。
「ならんからな」
「だからですか」
「うむ、拙者も働いて銭を手に入れよう」
幸村も率先してというのだ、こうしたことを話してだった。
幸村達は都に向かうのだった、そして。
この日は猪の肉を楽しみだった、じっくりと寝た。
朝は日の出と共に起きて猪肉の残りを食べて皮は取って骨を埋めて弔ってからだった。一行は都に向かった。
その道中でだ、清海は幸村に問うた。
「あの、我等が食した猪ですが」
「あの猪がどうかしたか」
「弔いましたが」
「そのことが何かあるか」
「はい、わしと伊佐が中心になって弔いましたが」
そのことについてだ、戸惑いながら言うのだった。
「殿は食ったものには全てそうしていますな」
「そうしておる」
「それは何故でしょうか」
「当然のことじゃ、その命を貰ったのじゃ」
だからとだ、幸村は冷静に答えた。
「それならばな」
「命を供養するのはですか」
「当然のことじゃ、これは猪だけではなくな」
「他の獣や魚も」
「そうする、殺生をしたからにはな」
「弔うと」
「それが拙者の考えじゃ」
こう話すのだった。
「だからな」
「あの猪にもそうして」
「これからもそうする、戦の時もな」
その時もというのだ。
「そのことはわかってもらう」
「わかりました、しかしそれこそが」
「それこそが。どうしたのじゃ」
「殿の仁なのですな」
「拙者は仁があるとは思っておらんが」
それでもというのだ。
「学びたいとは思っておるからな」
「だからですな」
「こうしたことは忘れずにしたい」
「では戦の時も」
「無論、敵であろうとも命は命」
それならというのだ。
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