巻ノ十二 都その三
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「他にもな。上田は美味いものはなく」
「贅沢はですか」
「期待せぬことじゃ」
「わかりました、というよりかは」
「どうしたのじゃ」
「拙者は贅沢より暴れです」
そちらだというのだ。
「そちらの方が好きなので。食うのは好きですが」
「腹一杯食うのがか」
「好きでして、何でも食います」
「贅沢は出来ずともじゃな」
「ははは、山で祖父様と一緒にいました」
「それで忍術を学んでおったな」
「そうでした、それで贅沢とは無縁の生活をしていましたので」
それでというのだ。
「そんなことよりも」
「暴れることか」
「そして腹一杯食えれば満足です」
「ならよいがな」
「ではこの猪も」
「うむ、たらふく食おうぞ」
清海もその猿飛に言う。
「この猪は美味いぞ」
「そうじゃな、明日はいよいよ都じゃ」
「賑やかな場所じゃ、楽しみじゃ」
「御主、賑やかといってもな」
穴山は眉を顰めさせて上機嫌の清海に忠告した。
「羽目を外してな」
「遊び過ぎるなというのじゃな」
「そうじゃ、酒に博打は気をつけよ」
「やれやれ。そう言うのか」
「当たり前じゃ、只でさえ御主は目立つのじゃ」
その大柄さと豪快だが剽軽な顔立ちからだ。
「大人しくしておれ」
「酒を飲めぬのは困るぞ」
「それで暴れられたら敵わぬわ」
力自慢の望月でもというのだ。
「我等でも一人一人ならかろうじてだからな」
「安心せよ、程々に飲む」
「その程々はどれ位じゃ」
「二升じゃ」
笑って言う清海だった。
「ほんのな」
「二升がほんのか」
由利はその単位に呆れて返した。
「うわばみか、御主は」
「拙僧は三升ですが」
伊佐は落ち着いた顔でその由利に言った。
「兄上よりも飲みます」
「三升も何処に入るのじゃ」
「そう言われましても」
「飲めるのか」
「はい、ただ私は酔いませぬ」
「幾ら飲んでもか」
「そうなのです」
兄の清海とは違い、というのだ。
「左様です」
「ならよいがな」
根津は伊佐の酔わないことを聞いて安心した。
「それならな」
「はい、逆に幾ら飲んでも酔わないので」
それでともだ、伊佐は根津に話した。
「残念にも思います」
「酔えぬのがか」
「どうも。味はわかるのですが」
それでもというのだ。
「兄上の様に酔わず。酔いというのがわかりません」
「それはかえって凄いのう」
「全くじゃな、わしは酒よりも甘いものの方が好きじゃが」
猿飛も言う。
「酔えぬというのはな」
「わしも酒には自信があるが」
霧隠も首を傾げさせている。
「酔えぬとはのう」
「そのことも都で見ることになるか」
首を傾げさせつつだ、幸村は沈着な声で述べた。
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