5部分:第五章
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第五章
「あんたの尻尾、見たから」
「そうでっか。そやったら」
そのことを言われると狸も観念しました。元々言い逃れをするつもりではありませんでした。けれどそれでもそうしたのです。潔くです。
「その通りです。わては狸です」
「それで何でやの?」
正座して畏まってきた狸に尋ねたのはおりょうです。
「何でまたうちのお店に?」
「はい、それですけれど」
彼は静かに話しはじめました。
「わてこの店のお饅頭とお餅食べまして」
「あっ、そういえば」
ここで秦平が気付きました。それは。
「前に一人目の周りの黒い太った男が来たけれど」
「はい、わてです」
それは彼だというのです。
「わてです、あれは」
「化けたんかいな」
「そうです。それでこの格好になって来たんですが」
「そうやったんか」
「ここのお饅頭とお餅の味が好きになってそれで」
こう話すのでした。
「それで来たんですけれど」
「成程なあ。それでか」
「それでうちの店に」
二人もそれでわかったのです。どうしてこの狸が二人のお店に来たのかも。それがわかったのです。
「わかったわ」
「じゃあそれでか」
「そうです。けれど尻尾が出たさかい」
こう話すのでした。
「わてはもうこれで。迷惑かけました」
「いやいや、出て行くことはないで」
「それはええから」
二人はそれはいいというのでした。立ち上がろうとした狸を止めてです。そのうえで言うのです。
「というか何で出て行くん?」
「今更」
「今更もそれもないやん」
「なあ」
また話す彼等でした。
「これまで頑張ってくれてますし」
「全然」
「じゃあこのままいてくれてええんですか?」
狸は思わず目を丸くさせて問い返しました。
「わてはこのまま」
「あんたは悪いことしたことないやん」
「そやったらええよ」
二人は穏やかに話して答えます。
「別にね。それで」
「ええと思うよ」
「ほな」
「これからも頑張ってや」
「うりの店で」
また狸に対して話します。
「そういうことでな」
「頼んだで」
「わかりました」
狸は二人に対して頭を深々と下げてお礼を言いました。
「じゃあこのまま」
「明日からもよろしゅうな」
最後に秦平が言ってです。狸はお店で働き続けることになりました。
狸はそれからもお店で働き続けました。そのお饅頭とお餅のために働き続けました。そして彼が死んだ時になって彼が狸だということがお店の外にも知られました。
そして皆そのお店をこう呼びました。狸饅頭と。もう秦平もおりょうもいなくなって息子が跡を継いでいました。その息子はその名前に大いに満足してそれを看板にしました。
これが狸饅頭の由来です。今ではお店の名前も変わったよう
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