流転
座して微笑う串刺し公T
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私達は予定していた道を外れ、薄暗くしんと不気味なほどに静まりかえった樹海を進んでいた。
教会を離反した私を異端審問官が見逃すはずもなかった。
あの日から毎日のように奴らの襲撃を受け、ゆっくりと身体を休める暇もない。
そんな中、打開案を出したのはアーシェだった。
それは、彼女たち異端者の中ではそれなりに名の通った魔術師ヴラド=ツェペシュに匿ってもらうというものだった。
彼の住まう城はこの樹海の奥深くに建てられ、異端者の隠れ家のような場所となっているらしい。
しかし、どれほど進んでも城はおろか小屋の一つもない有り様。
本当に道はあっているのか―――。
疲れがたまっていたせいか、旅の道をそれてまで案内してくれたアーシェについ悪態をついてしまう。
言った後にしまったと後悔するが、後の祭りだろう。
怒っているに違いないと、恐る恐る彼女の表情を確認するが、意外にも彼女はそれを気にしている様子はなかった。
「そう易々見つかる場所に隠れ家を構える馬鹿は居ないでしょう」
そう言った、彼女の額から一筋の汗が流れ落ちる。
疲労が貯まっているのは彼女も同じなのだ。
すまない―――。
私は謝罪をするが、特に返事もなく彼女は歩き続ける。
謝っている暇があるなら歩けと、そういうことらしい。
それからさらに奥、生い茂る木々で一層闇の深まった森の中で、ついに幾つかの小さな光が見えた。
それは、樹齢にして数千年かという大木に打ち付けられぶら下がる幾つものランタンの灯火だった。
「やっと休めるわね…」
そう言って彼女の見つめる先には、こんな樹海の中で蔦も絡まることなく、苔の処理も綺麗に施された城壁が姿を表す。
彼女の話では、その城は周囲の樹木よりずっと昔に建てられたものらしいが、損傷という損傷は特に見受けられず、古城というには些か綺麗すぎる城だった。
それゆえに、周囲とは雰囲気を違え、神秘的にも見える佇まい。
そんな城の門を、彼女は荒々しく叩く。
「ヴラドッ。開けなさいよ」
先ほど暴言を吐いた私が言えた義理ではないが、彼女には本当に礼儀も素養も無いようだ。
しかし、そんな彼女の無礼な態度にも門は重々しく開き招き入れる。
「これはこれはアーシェ様。お久しぶりにございます。半世紀ぶりになりますかな」
私達を出迎えたのは、老紳士という言葉がよく合う、紳士服を着こなした物腰の柔らかく高貴な雰囲気を醸し出す白髪の老人だった。
「久しぶりねアルバート。ヴラドは相も変わらず奥で腰の折れそうなほどふんぞり返っているのかしら」
彼女の悪態にも慣れているようで、アルバートと呼ばれた彼は優しく微笑むと、かわりませんな、と私達を招き入れてくれた。
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