episode16
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首と胴体が二つに分かれ、隠れて見ていたのであろう子どもと女性の悲鳴が響いた。テーブルとイスだけで作られたバリケードを退かし、小さく蹲っている人間に、アンカーは同じ問答をした。
「食料か金品を寄越せ。命は助けてやる」
「あ、あたしは!」
「ん?」
「そのガキが持ってるわよ! あたしは関係無い!」
“ガキ”と言われた少年が持っているのは、お小遣い程度のベリーが数枚と、食べかけのチョコレートだった。海賊にとっては何の価値も無い物だが、アンカーはそれでも良しとする海賊である。
ただ、アンカーにはどうしても許せないものがある。それが、あの母親だ。少年からチョコレートだけを受け取り、去ろうと背を向けたのと同時に、母親は家から飛び出して逃げて行ってしまう。
「殺れ」
アンカーの傍らにいた仲間が、逃げた母親の頭を撃ち抜いた。
動かなくなった死体の衣服からは、安物のアクセサリーが数個出てきた。この元母親は、自分の子どもより金品を選んだのだ。アンカーには、それが許せなかった。
甘い。そう言われるのは重々承知の上である。
「げほっげほっ」
「大丈夫か?」
「ん......平気」
「痩せ我慢すんな、顔色が悪い。...帰るぞ」
胸の痛みを覚えながら、アンカーは船がある方へと踵を返す。後方で子どもがなにやら叫んで怒鳴っているが、内容までは耳に届かない。そんな余裕は無かった。
ぐらり、視界が揺れたかと思うと、アンカーは膝をついていた。胸の痛みが激しくなる。呼吸が、止まりそうになる。アンカー自身も、己に何が起こっているのか理解出来ないでいた。
「ハッ...ハッ...ハッ...!」
「アンカー!? おい、しっかりしろ!」
「......ッハ...ッハ...」
上手く呼吸が出来ない。呼吸の仕方を忘れてしまっているようだった。アンカーも仲間も、混乱を隠せずに慌てふためく。とにかく船に戻らねば!と仲間がアンカーと武器を担ぎ、荒れ果てた村の中を走り抜けて行った。
「お頭!」
金品や食料を袋いっぱいに詰め込んで、意気揚々と船に戻って来たアーロン達を迎えた部下の次の一言に、アーロンは言葉を失った。
「早く、こちらです!」
出迎えた部下の後を追い、アンカーの自室へと向かう。
中には、今の船員の中で数少ない船医と、自身のベッドの上で横たわるアンカーの姿があった。
「アンカー!」
「大丈夫です、船長...。今、落ち着いて眠ったところですよ」
「......そうか」
アンカーが無事であると聞き、力が抜けてその場に座り込んでしまうが、誰も何も言わない。
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